ボンボン
2007/6/1
El Perro
2004年,アルゼンチン,97分
- 監督
- カルロス・ソリン
- 脚本
- カルロス・ソリン
- サルバドール・ロセッリ
- サンティアゴ・カロリ
- 撮影
- ウーゴ・コラス
- 音楽
- ニコラス・ソリン
- 出演
- フアン・ビジェガス
ワルテル・ドナード
- ローサ・バルセッキ
- マリエラ・ディアス
手作りのナイフを売り歩く“ココ”ことフアン・ビジェガスは、20年務めたガソリンスタンドを首になり、娘の家に居候していた。そんなココがある日車を走らせていると、故障した車を見つける。その車を持ち主の家まで牽引し、修理するとお礼の変わりに大きな白い犬“ボンボン”をもらってしまう…
カルロス・ソリンが田舎の人々を描いた人間ドラマ。出演者のほとんどは素人で、田舎の雰囲気がうまく出ている。
このおじさんは実に人がいい。いつもニコニコしていて、穏やかで欲張らない。余りに人がいいので、いつか騙されそうなのだが、騙されそうで騙されない。この騙されないというところが田舎の温かみというところなのだろうか。
とはいえ、このおじさんココもただお人よしなわけではない。少しはごまかしたり、嘘をついたりもするし、見栄も張る。しかし、このおじさんの人のよさがまわりからの親切を呼び、幸せを呼ぶのだろう。そういう性善説は今の社会では信じがたいことで、そのためにこの作品には説得力を欠いているけれど、カルロス・ソリンの作品を観ているとアルゼンチンの田舎は本当にこんななんじゃないかという気がしてくる。
実際は、アルゼンチンの田舎は貧しくて、人々の生活は苦しい。もちろん、この作品にもそれは垣間見えるわけだが、その苦しい中でも人々は「思いやり」を忘れていないように見える。自分の生活が苦しくとも、困っている人を邪険にしたりはせず思いやる。それが出来ればこんな暖かい社会が実現するかもしれないのだ。まあ、現実的ではないが。
心温まるというよりは、ほっとする、安心すると言ったほうがふさわしいような作品。お伽噺と思ってみれば、それなりに楽しめる。
さて、この作品の出演者はほとんどが素人だという。主役のフアンもトレーナーのワルテルも本名のまま出演しているし、確かにプロの役者っぽくはない。しかし、そう聞かなければ気づかないくらいのものである。
ラテン・アメリカの映画はこのように素人を役者として使うことが多い。それはプロの役者が少ないからなのか、それとも素人でもプロ波の演技が出来るからなのか。素人を使うことによってリアルになるか、惨めになるかは紙一重だ。いかにも下手な演技を見せられれば興ざめするが、その人の実際の生活と重なるような役をうまく演じればリアリティは増す。
素人の役者を起用するラテン・アメリカの映画の多くは、市井の人の日常を描いているから、リアルなほうに傾くことが多く、作品としても成功するのだろう。そういえば、カルロス・ソリンの『王様の映画』は素人を役者として使うという映画だった。
ラテン・アメリカは(メキシコを除いて)まだまだ映画後進国だけれど、このような営為を通じて役者や作り手が育っていけば、距離的にアメリカに近く、スペイン語という大きなマーケットを持っているだけに、成長する余地はある。特にヨーロッパ的な価値観を持つアルゼンチンはその最右翼といえるのではないだろうか。この作品からというより、カルロス・ソリンの作品群からそのような可能性を感じる。