星影のワルツ
2007/6/2
2006年,日本,97分
- 監督
- 若木信吾
- 脚本
- 若木信吾
- 撮影
- 若木信吾
- 出演
- 喜味こいし
- 山口信人
- 渥美英二
- 磯部弘康
東京から浜松の実家に帰省した写真家の信人は祖父と話したり、幼馴染とぶらぶらしたりして過ごしていた。しかしある日、祖父の兄が自殺をしたという知らせが届く…
写真家の若木信吾が20年にわたって写真を撮り続けた亡き祖父への思いをつづった自伝的ドキュ・ドラマ。祖父役はベテラン漫才師の喜味こいしが演じ、若木信吾の実際の幼馴染も出演している。
写真か若木信吾の初監督作品とあって映像に期待が集まる。しかし、冒頭の老人2人が会話しているシーンから映像は窮屈でまったく自然さを欠いている。そして、山口信人もその両親も演技がたどたどしく、とてもプロとは思えない(山口信人と母親は父親と比べると上手にも見えるが、プロの水準には達していない)。そして、続いて幼馴染な登場。これが若木信吾の実際の幼馴染らしいということは簡単に推察できるが、その2人と山口信人の年齢には差がありすぎ、幼馴染という設定には無理があるし、そのような状況で素人の幼馴染に自然な演技をしろというのは無理がある。
映画の中盤には、若木信吾がカメラを持って彼らの職場を訪れるというシーンがある。知的障害がある彼らだが、英ちゃんは福祉作業所で働き、弘ちゃんは一般の建設会社で働いている。その仕事の現場へ若木信吾がインタビューに行くのだ。このシーンでの彼らの会話や笑顔はすごく自然だ。このシーンを入れた意図はよくわからないが、結果的に芝居のシーンの不自然さが目立つ結果となってしまったといわざるを得ないだろう。
彼らはあくまで素人であり、ついカメラの脇にいる若木のほうを見てしまったりすることも多い。素人といえば、若木信吾も映画作家としては素人であり、街中や川原で無関係な人が見切れてしまった場合などに、無理にそれを避けようとカメラを振ってしまったりという不自然さが目立つ。さすが写真家だけに、固定フレームのロングショット(特に人物が映っていないシーン)の映像には美しいものが多い。
おそらくこの作品は、若木信吾が自分の祖父と幼馴染という自分が愛する人々のために作った作品なのだろう。自分の好きな祖父と幼馴染のことをほかの人にも知って欲しくてこの作品を作ったのではないかと思える。しかし、そのような意図で作ったことで作品としてのまとまりは完全になくなってしまっている。
スチルとロングの美しさを思えば、祖父のエピソードだけに話を絞ってスチルないしロングで抽象的なアルバムのように物語を展開していけばいい作品になったかもしれない。
プロのカメラマンでも、ムービーカメラを持てば素人だし、ましてや演出に関してはあまりに学ぶべきことが多い。なかなか難しいものだ。