アムステルダムに暮らすヘヨンは祖父の骨董屋を手伝いながら画家を目指して週末には街で似顔絵描きをしている。その客として現れたジョンウに彼女は運命を感じるが、そのジョンウは実はインターポールの刑事で、犯人を見張るために彼女を利用しただけだった…
　 『インファナル・アフェア』シリーズのアンドリュー・ラウが韓国で撮ったラブストーリー。殺し屋の視点からみた『デイジー　アナザー・バージョン』というのもある。

　この映画の舞台はアムステルダムで、それはこの主人公のヘヨンがゴッホを好きだからということなのだろうけれど、結局登場するのは韓国人だけであり、アムステルダムを舞台にする理由はまったくない。この物語なら別にソウルでも、東京でも、香港でも、ニューヨークでも、北京でもどこでも撮れたはずだ。アムステルダムという舞台設定が生きているのはパクウィが暮らすボートハウスだけだが、これも別にボートハウスという雰囲気がいいだけで、ボートハウスでなければいけないという理由はない。
　 主人公が描く絵もバリバリ印象派だし、この作品はなんだか欧州への盲目的な憧れという日本で言えば昭和的な感覚で作られた作品のように見えてしまう。アンドリュー・ラウは香港で最先端の作品を作ってきたはずなのに、韓国に招かれて撮った作品がこれではなんともがっかりという感じだ。
　 この映画は結局、良くも悪くも韓国映画という感じである。似たような顔をした美人女優の一人が登場し、障害の多いラブストーリーを展開する。今回の主演はチョン・ジヒョンで『猟奇的な彼女』の女優だが、私には吉岡美穂に見えて仕方がなかった。それにしても韓国の女優というのは個性のある人が少ないような気がする。まあ、日本もそんなにかわらないが、日本のほうがまだ個性的な人が活躍する余地がある気がする。
　 そして、この作品で一番気になったのは音楽の使い方だ。韓国映画の音楽の使い方はベタで大げさだが、この作品もそれがぴたりと当てはまる。映像と音楽があっているといえばあっているのだが、音楽で盛り上げようという意図が見え見えすぎて逆効果かもしれない。

　よかった点はといえば、３人の視点の切り替え方だろう。この切り替えをうまく使うことで重要な部分を隠し、展開をスリリングにする。韓国映画が日本映画より優れている点はスリルにあると思う。サスペンスやアクションという分野では韓国映画のほうが日本映画よりもハリウッド的でスリリングな展開を作り出すのがうまい。しかも今回は監督がアンドリュー・ラウということで、相乗効果でスリルが増しているのだろう。ベタだベタだと思いつつ、なんとなく最後まで見れてしまう、そんな映画ではある。
　 そして、ラストもなかなかいい。ラストを見て「ええっ」と思って最初を見てみると、「そうだったんだ～」という発見がある。最初には誰も気づかないような仕掛けで、映画の展開には何の影響もないのだけれど、こういうちょっとした工夫があると、映画を見終わったあとに少しだけ得した気分になれる。