オアシス
2007/7/26
Oasis
2002年,韓国,132分
- 監督
- イ・チャンドン
- 脚本
- イ・チャンドン
- 撮影
- チェ・ヨンテク
- 音楽
- イ・ジェジン
- 出演
- ソン・ギョルグ
- ムン・ソリ
- アン・ネサン
- チェ・グィジョン
- リュ・スンワン
- ソン・ビョンホ
半袖で冬の街をうろつくジョンドゥは無銭飲食で警察に捕まる。前科3犯のジョンドゥは刑務所を出所したばかりで、弟が彼を引き取る。家に帰ったジョンドゥは兄に説教されて中華料理屋で働くことになるが、彼がひき逃げした男の家を訪ね、そこで脳性マヒの娘コンジュと出会う…
脳性マヒの娘を演じたムン・ソリの演技が光るヒューマン・ドラマ。ヴェネチア映画祭で監督賞(イ・チャンドン)と新人俳優賞(ムン・ソリ)を受賞した。このふたりは『ペパーミント・キャンディー』でもコンビを組んでいた。
韓国映画には日常にはなかなかない題材を作品が多くある。この作品も脳性マヒの女性と前科者の(少し知的障害があるらしい)男性が主人公ということでそのような作品のひとつかと思わせるが、そうではなかった。それは、まずこのムン・ソリの演技のリアリティにある。脳性マヒというのはそれほど珍しい病気ではないし、脳性マヒを抱えながら生きている人はたくさんいる。ムン・ソリはそのような人たちの姿を生き生きと演じて見せ、これを単なるお涙頂戴のドラマに堕することを食い止めた。
そして、シナリオもいい。このドラマは結局ラブ・ストーリーになるのだけれど、障害者が登場するラブストーリーというと障害を越えて愛し合うふたりみたいなものになりがちなところをうまく回避してもいるのだ。それは、相手のジョンドゥをエキセントリックなキャラクターにしたところにある。このジョンドゥは少し知的障害(学習障害か?)があるようだが、それとあいまった彼の突飛な行動がこの物語を落ち着かせないのだ。そもそもジョンドゥは障害を持つコンジュに、自分の欲望を満たすために(簡単に言えば強姦するために)近づく。しかし、そこから突然彼は献身的な恋人となるのだ。それは、彼が冷静沈着な強姦魔ではなく、自分の欲望をうまく制御できず、しかもそれを自分なりに苦々しく思っている男だからだ。彼はコンジュが昏倒し、その介抱をしたことで彼女を欲望のはけ口とは見なくなり、彼女に対して違う形の欲求を感じ始めるのだ。自らの欲望に素直な彼は、コンジュに徹底的に尽くすようになる。そして、同時にいわゆる社会通念を理解しない彼はコンジュと対等に付き合うことで、コンジュの心を少しずつ捉えていくのである。
こういう心がこもった恋愛ドラマというのはなかなかない。今の韓国映画は不治の病を抱えたとか、刑務所にいるとか、短絡的な障害を設定し、それを乗り越えようという恋愛ドラマを作りがちで、その多くはワンパターンで退屈なものになりがちだ。この作品はそんな作品が多く入ってくる韓流ブームの前の作品だが、それだけに意味があると思う。
ただ、ジョンドゥとコンジュを取り巻く家族はどうも冷たすぎる気がするのが少し残念。まあ、恋愛を描くためには、家族というのは障害になりがちだが、家族なら同情してしかるべき前科者や身障者に対してあまりに冷酷すぎはしまいか。まあ、コンジュのような身障者に冷たい家族なんてのは珍しいことではないが、ジョンドゥのほうの家族は、途中で明かされる秘密もありながらあの冷酷さはどうだろうか。韓国の事情なのか、それともシナリオの都合なのか、それぞれの家族関係ももう少し掘り下げて、より複雑な感情を描くことができたら、本当の名作になったかもしれない。
それでも、玉石混交の韓国映画の、特に駄作が多い恋愛ものの中にあって、きらりと光る好作品ではある。ムン・ソリはこれだけの演技力がありながら、その後は『浮気な家族』など数本の作品に出演していないのは、こだわりなのか、それともやはり美人女優ばかりがもてはやされる韓国の事情なのか。彼女の演技をじっくりと見るなら、必見の作品だ。