スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと
2007/8/5
Spanglish
2004年,アメリカ,131分
- 監督
- ジェームズ・L・ブルックス
- 脚本
- ジェームズ・L・ブルックス
- 撮影
- ジョン・シール
- 音楽
- ハンス・ジマー
- 出演
- アダム・サンドラー
- パス・ベガ
- ティア・レオーニ
- クロリス・リーチマン
- ジェルビー・ブルース
- サラ・スティール
クリスティは母に連れられて6歳でアメリカにやってきた。6年間をヒスパニックの街で過ごしたが、母のフロールはよりよい職を求めてクラスキー家でハウスキーパーをすることに。英語が話せない彼女は家族とコミュニケーションがとれないが、家族のほうに問題が山積みだった…
コンスタントにヒットを飛ばすアダム・サンドラーが売り出し中のラテン美女パス・ベガと共演したヒューマン・ラブ・コメディ。この手の作品としてはかなりの出来。
アダム・サンドラーは控えめな演技をしていればコメディでなくても役者として通用する。この作品もクレジット上ではアダム・サンドラーが主演となっているが、実質的な主役はパス・ベガ演じるフローラであることは間違いない。そして、その構成が非常にうまくいっている。パス・ベガに存在感があることは間違いないが一人でこの作品を背負えるほどではなく、それをアダム・サンドラーと他の脇役たちがうまく補っていい作品に仕上がっているのだ。
話のほうはというと、基本的に母と娘の物語である。フローラとクリスティーン、デボラとバーニー、そしてエヴェリンとデボラ。フローラとクリスティーンという非常に結びつきの強い母娘が異質だが娘には魅力的な文化に触れ、娘が変わっていくことで母娘関係が変化していく。バーニーはデボラからの愛情を感じられず、フローラにそれを求める。逆にクリスティーンはデボラに自分の母にないものを見出す。しかし、最後にはデボラが普段は邪険に扱っているエヴェリンに頼ることで母と娘の関係の根本的に普遍な部分を描くのだ。
もうひとつ重要になるのは、フロールとジョンの会話である。このふたりが惹かれあっていることはすぐにわかるのだが、ふたりはただただ子供たちだけのために話し合う。そのために恋愛という側面には歯止めがかかるのだ。しかし、話し合えば話し合うほどそれまでに知っていた異性とあまりに違う感覚に驚き、それが恋愛へと発展していくのは避けられない。
しかし、これがそのままラブ・ストーリーへと摩り替わっていかないのがこの作品のいいところだ。いわゆるありがちなハリウッド映画では、最終的に主役ふたりのラブ・ストーリーへと物語が修練し、他のテーマは背景へと消え去っていってしまうことが多い。しかしこの作品は最後までしっかりと母娘関係を描き、しっくりこないところは多少あるにしろ一応の結末を見る。これは近年のハリウッド映画にはなかなかない結末のつけ方だ。マンネリ化が進んでもうどれくらいたつかわからないハリウッド映画もこういう方向に進めばそれなりに面白い作品が作れるのだ。だから、そんなにすばらしい作品というわけではないけれど、私はこの作品を評価したい。
そんな中で大きいのはやっぱりアダム・サンドラーの存在だろう。『もしも昨日が選べたら』の時も思ったが、彼はおそらくトム・ハンクスのようにシリアスな俳優へと転身を遂げようとしているのだろう。そして、それが可能なことをこの作品でも証明していると思う。トム・ハンクスのアカデミー賞狙いのヒューマニズム路線もいい加減マンネリだし、アダム・サンドラーがいい作品を作ってくれればハリウッドももう少し面白くなってくるのではないか。彼がラジー賞ではなくアカデミー賞にノミネートされるのもそう遠い未来の話ではないと思う。