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ベストセラー

グアンタナモ、僕達が見た真実

★★★★.5

2007/8/15
The Road to Guantanamo
2006年,イギリス,96分

監督
マイケル・ウィンターボトム
マット・ホワイトクロス
撮影
マルセル・ザイスキンド
音楽
ハリー・エスコット
モリー・ナイマン
出演
アルファーン・ウスマーン
ファルハド・ハールーン
リズワーン・アフマド
ワカール・スィッディーキー
シャーヒド・イクバル
preview
 2001年、パキスタンへ結婚するために向かったイギリス育ちの青年アシフは結婚を決め、式のためローヘル、シャフィク、ムニールという3人の親友をパキスタンへ呼び寄せる。パキスタンで数日を過ごした4人は現状を知るためアフガニスタンを訪れる。しかし、同時に空爆が始まり、彼らはいつの間にかタリバーンたちの中に取り残されてしまう…
  アフガニスタンでつかまり、テロリストとしてグアンタナモ空軍基地に拘束されたイギリス系パキスタン人の3人の青年の体験を彼らの証言をもとに再現したドキュ・ドラマ。生々しい戦争の真実を描いた傑作。
review

 私は実際に戦争は知らない。私が知っている戦争は伝え聞いたこと、記録された映像、再現された映像、語られた物語だけである。しかし、この映画を見て「これが戦争だ(“This is War”)」と思った。『ブラッド・ダイヤモンド』でレオナルド・ディカプリオ演じるダニー・アーチャーは繰り返し“This is Africa”と言うけれど、それと同じようにこれが戦争だと私は思った。それは「これ」という言葉でしか説明できない事実、いかにたくさんの言葉を繰り出しても説明が足りないような現象としての「戦争」をまったく端的に表現したものだ。
  この作品に表れているのは、戦争の理不尽さ、むき出しの憎しみ、信念という名の盲信、他人を陥れるためだけに用いられる誤謬、他者をないがしろにするための脅迫、自分が有利になるために用いられる詭弁である。
  ここで証言をしている3人のパキスタン系イギリス人たちは彼らの言葉を信じるならば、まったくテロリストとは無関係なそれなりに敬虔なイスラム教徒である。イギリスにはインド州やパキスタンからの移民が多く、イスラム教徒も多いから、彼らはイギリスではそれほど珍しい存在ではないはずだ。その一人の結婚式のために彼らはパキスタンへ行き、まさに戦争が始まろうとしている(そしてそんなにすぐに始まるとは思われていなかった)アフガニスタンに、その場所とその人々を知るために入る。そして彼らは「不運にも」テロリストと一緒のところをつかまり、テロリストとしてつかまってしまうのだ。そして彼らは拷問としか言いようのない尋問を受けながら数年間を過ごす。
  もちろん、危険を察知していち早く出国しなかった彼らの落ち度もあるだろうが、戦争という混乱の中では彼らの力ではどうにもならないこともある。それが戦争なのだ。そして、再現された彼らを見ながらいろいろなことが頭をよぎる。そもそもこのアメリカが一方的に始めた戦争の捕虜を拘禁し、尋問し続ける権利がアメリカにあるのか。もちろん弁護士に会うことも許されず、正当な裁判を受けることもできず、家族と連絡を取ることができないという境遇に、ただテロリストの疑いがあるというだけの人々を何年間も追いやる権利があるのか。この作品はブッシュが「人道的だ」といったグアンタナモの非人間的な状況をまず告発しているわけだが、たとえそれが人間的なものに改善されたとしても、彼らの基本的な人権を侵害していることに変わりはない。なぜそのようなことが許されるのか。
  その答えはひとつしかない。それは戦争だからだ。
  アメリカはジュネーブ協定は「ほぼ」守っているなどというが、戦争においてはそのような倫理が末端まで徹底されることはまずないと考えたほうがいい。戦争の“前線”にいる人たちは自分自身の命をかけ、“敵”への憎しみをたぎらせて行動している。そのような人々に理性を求めるのはどだい無理な話である。理性的に行動したら自分自身の命が危ないかの知れないのだから。もちろん、そのような行動は後では非難されるし、一部は責任をとらされる。しかし、戦争においてそのことは決してなくならない。それが戦争なのだ。
  現在の人々は過去のそのような行為を取り上げて「もうそのようなことは繰り返さない」と言う。しかし、実際にずっと繰り返されているし、これからも間違いなく繰り返されるのだ。この作品が伝えるのは、ただ戦争とはそのようなものだということだ。 私は戦争を知らないが、そのことはわかる。それにはただ想像力を働かせてみればいい。ここに登場する3人のような境遇に置かれたらどのように感じるかを。彼らの心に宿った憎悪を。それがもし武器と結びついたとき何が起こるかを。自分が強い憎しみを抱いたとき何を感じるかを。
  もしあなたが、軍隊に身を置き、そのような憎しみに身を任せたとき、自分の行動を理性によって制御できるだろうか? 私にはその自信はない。だから私は戦争になど行きたくないし、軍隊になど入りたくないし、軍隊がある国の国民でもいたくない。みながそう思えば戦争も軍隊もなくなると素朴に思ってはいけないのだろうか?

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