世界最速のインディアン
2007/8/17
The World's Fastest Indian
2005年,ニュージーランド=アメリカ,127分
- 監督
- ロジャー・ドナルドソン
- 脚本
- ロジャー・ドナルドソン
- 撮影
- デヴィッド・グリブル
- 音楽
- J・ピーター・ロビンソン
- 出演
- アンソニー・ホプキンス
- クリス・ローフォード
- アーロン・マーフィ
- クリス・ウィリアムズ
- ダイアン・ラッド
ニュージーランドの小さな町インバカーギルに暮らす初老の男バート・マンローは“1920年型インディアン・スカウト”を改造し、スピードを追及し続けていた。彼の夢はユタ州で開かれるスピードコンテストで世界記録を破ること、こつこつと貯金をし、周りの人からカンパをもらい、家を抵当に入れてバートはついにアメリカに向かう…
実在の伝説的なライダーの実話をもとにした感動ドラマ。監督は『13デイズ』のロジャー・ドナルドソン。
グッド・オールド・デイズ、古きよき時代のアメリカというと西部劇の時代を思い出すわけだが、この作品は60年代が舞台であるにもかかわらず、そんな古きよきアメリカという言葉がピタリと来る作品だ。とにかくバイクで早く走りたいおっさんが遠路はるばるアメリカまでやってきて、右も左もわからない土地でロスからユタまで行き、バイクレースに出ようとする。しかもお金はほとんどない。しかし、彼はいい人ばかりに出会い、彼らの助けでうまい具合に目的地に到着するのだ。
この作品はあまりに平和すぎて、いかにわれわれがいつも何か事件がおきることを期待しながら映画を見ているのかということが逆にわかる。ハリウッドのスペクタクルに慣れきった観客はどこかで何かの事件が起きないと、どうも退屈してしまうのだろう。そのような意味ではこの作品はかなり退屈な作品だ。しかし、ハリウッドのスペクタクルの別のパターンとして存在するのが“御伽噺”というものである。これはありもしないほど「よくできた話」で、悪人が出てきたとしても改心するか気持ちよく退場させられるかして、主人公はあれよあれよというまにハッピーエンドへと向かうのだ。この作品はその“御伽噺”型にピタリとはまる。しかもこれはロードムービー、ロードムービーと御伽噺は相性がいいのだ。
まあ、御伽噺というとたいてい対象は子供化せいぜい若い女性と相場が決まっているものだが、この作品の主人公は爺さんで、映画のターゲットもとても子供や若い女性とは思えない。ニュージーランドでは爺さんの親友として男の子が登場するから、男の子にとっては御伽噺として成立しやすいとは思うが、女の子にはなかなか難しい。
それでもこの作品はなんとなく成立し、なんとなく見られてしまう。それはなぜかといえば、おっさんでも爺さんでも婆さんでもどこかで“御伽噺”を求めているということだ。それが端的に表れるのはこのバートの「ロマンス」である。ロバートはこの作品の中で一度ならず二度までもロマンスを経験する。それは婆さんにとっての御伽噺であり、同時に爺さんにとっての御伽噺でもある。そしてまたこのバイクレースに出ること自体が爺さんにとっての御伽噺であるのだ。
ここには「こんなだったらいいなぁ」という世界があり、しかもそれは実話を基にしているのだ。もちろん、美化され脚色され、マイナスの部分は隠されてはいるのだけれど、こんないい時代もあったんだということを語るには十分な材料なのだ。
そして、それを演じるアンソニー・ホプキンスが実にいい。爺さんなら、俺もこんな風になりたいと思い、婆さんならこんな男と最後に一花咲かせたいと思い、おっさんはこんな爺さんになりたいと思う。いつまでも夢を持ち続ける年寄りってのはいい。