フランシスコの2人の息子
2007/8/19
2 Filhos de Francisco
2005年,ブラジル,124分
- 監督
- ブレノ・シウヴェイラ
- 脚本
- ブレノ・シウヴェイラ
- 撮影
- アンドレ・オルタ
- パウロ・ソウザ
- 音楽
- カエターノ・ヴェローゾ
- 出演
- アンジェロ・アントニオ
- ジラ・パエス
- ダブリオ・モレイラ
- マルコス・エンリケ
ブラジルの田舎町の小作農フランシスコは生まれた息子を歌手にしようと毎日ラジオを聞かせる。長男のミロズマルは音痴だったが、ハーモニカを買い与えると音楽に熱中、さらにアコーディオンを手にして弟のエミヴァルとデュオを組むことにする。そしてついに地代が払えなくなったフランスシスコは都会に出ることを決意するが…
ブラジルの人気歌手“ゼゼ・ディ・カマルゴ・エ・ルチアーノ”の反省を描いた感動のドラマ。
物語は父親が息子たちに夢を預け、ミュージシャンにするために周囲から馬鹿にされながらも楽器を買ったり、学校を作ったりすることろから始まる。そして音痴だった息子もいつの間にか歌が上達し、音楽に興味のなかった弟も兄に影響されて音楽を始め、田舎町では評判のデュオとなるわけだ。その間に次々と子供が生まれ、子沢山になっていくところや、兄弟の音楽を巡るエピソードはなかなか楽しい。
そして、都会に出て更なるチャンスを求めるというお決まりのコースをたどり、そしてまたお決まりどおりにそこで苦しい生活を余儀なくされるのだ。さらには芸能関係の話ではよくある怪しげなエージェントというのが登場して1週間の約束が4ヶ月も引っ張りまわされるというところまでいかにもな展開が続く。
しかしここでこの作品はこのエージェントがお金をくすねるとか、彼らをだますとかいった展開には持っていかず、そもそもお金の話が出ない。彼らは雨漏りする家で貧乏生活をしながらお金儲けの話はまったくしない。兄弟が一念発起してバスステーションで歌い、お金をもうけてきたときもフランシスコはお金の話は結局しない。
これはおそらくフランシスコは息子たちの成功を求めてはいたけれど、必ずしもそれはお金ではないということをいいたいのだろう。フランシスコは息子たちの歌がラジオから流れてきたり、たくさんの人に聞かれたりすることを求めているというメッセージなのだろう。
それはわかるが、そうなるとこの作品はどうにもこの“ゼゼ・ディ・カマルゴ・エ・ルチアーノ”の宣伝以外のなにものでもなくなってしまい、映画としての面白さは減じてしまう。これは典型的なアメリカン・ドリームをブラジルで展開する物語であり、それ自体は悪くないのだが、アメリカン・ドリームには常に背景に暗い部分があり、それを乗り越えて成功をつかんだという物語がある。そして、そこには奇麗事では済まされないさまざまなドラマがあるのだ。
この作品にはそのくらい部分がまったくといっていいほどない。彼らは努力をし、最終的に成功する。彼らはすばらしい。ただそれだけなのだ。だから、ミロズマルの恋の話しなんていう物語上はまったく必要のないエピソードにやたらと長い時間を使ってしまうのだ。これは彼らに対して媚を売っているとしか思えない。
ブラジルではみんなが彼らのことを知っているからこの映画を「なるほどねー」と見ることができるのだろうが、日本で彼らのことをまったく知らないで見る私たちには終盤部分はまったくつまらない。確かに彼らの歌はなかなかいいなぁとは思うけれど、この物語はあくまでも『フランシスコと2人の息子』であって、その前提が成立する間だけを物語にするべきなのだ。終盤の30分ほどはいたずらに上映時間を長くする蛇足に思えてならなかった。