フリーダムランド
2007/8/22
Freedomland
2006年,アメリカ,112分
- 監督
- ジョー・ロス
- 原作
- リチャード・プライス
- 脚本
- リチャード・プライス
- 撮影
- アナスタス・N・ミコス
- 音楽
- ジェームズ・ニュートン・ハワード
- 出演
- サミュエル・L・ジャクソン
- ジュリアン・ムーア
- イーディ・ファルコ
- ロン・エルダード
- ウィリアム・フォーサイス
- ピーター・フリードマン
ある夜、ニュージャージー州デンプシーの病院に両手を血まみれにした女性がやってくる。デンプシーのアームストロング団地が管轄のロレンゾ・カウンシル刑事はその女性ブレンダ・マーティンがカージャックの被害者であるとの報を受け病院に急行するが、彼女は隣の警察署の刑事だったため、彼らが団地を封鎖して騒動になる…
ベストセラーミステリーを原作者のリチャード・プライス自身がシナリオ化し、プロデューサとして知られるジョー・ロスが監督したサスペンスドラマ。
事件の発端は白人女性が黒人の住むアームストロング団地でカージャックに遭うというありがちなもの。しかしその女性ブレンダの兄が隣町(おそらく白人の町)の刑事で、しかもブレンダは普段その団地で働いているという複雑な背景を持つ。そして、その事件に当たるのはその団地の住民から信頼されている黒人刑事のロレンゾである。
ロレンゾは彼女の証言に隠されているものがあることに感づく。観客としてみても、彼女の立ち居振る舞いは事件に遭ってパニックに陥っている被害者のそれというよりは、うそをついていて、それを隠すための落ち着きのなさのように見える。ロレンゾはそれに気づくのだが、なかなかそれが何なのかを突き止めることはできず、ブレンダの兄が団地に犯人が潜伏しているとして団地全体を封鎖したことで町は騒然とするのだ。
この物語は奥歯に物の挟まったような感じを保ったまま、しかし着実に続いていく。ロレンゾはじわじわと事件の核心に迫り、映画としてはその確信が何であるかを観客に推理させる材料をいろいろと用意する。その推理ゲームはなかなか面白いものだ。
さらにこの作品がいいと思うのは、このサスペンスが核心に近づいていくにつれ、物語はヒューマンドラマへとシフトして行くということだ。この物語は単に事件とそれをめぐる人々の関係を描いたものではなく、人々と、彼らがかかわりあるいは巻き込まれてしまう事件を描いたものとなる。徐々に明らかになるブレンダの真意と心理、刑事として事件を追いながら息子は刑務所で服役しているロレンゾの気持ち、団地の住人でロレンゾともブレンダとも仲がよいフェリシアとその夫のビリーの関係(映画の序盤でフェリシアはビリーに暴力を振るわれたとロレンゾに訴えている)、それを描くことでこの映画は事件を追うサスペンスであると同時に人間を描くヒューマンドラマとなるのだ。
そして、最終的にはサスペンスの核心である事件の真相が明らかになり、人間が残る。事件が解決してもそれにかかわった人の人生はいつまでも続くのだ。
この映画を見て思ったのは、サスペンス映画の多くは事件の解決とともにそれにかかわった人々の人生も投げ出してしまうということだ。時には犯人が死んだり、捜査官が死んだり、死ななくとも犯人は刑務所に放り込まれ、捜査官は次の事件へと移って行くだけだ。その事件が人々にどのような傷跡を残し、彼らの人生がどう変わったかなどということには触れもしないのだ。
しかしこの作品は団地のほかの住民も含めて(人種問題はあまりうまく描かれていないと思う)、彼らと彼らが暮らす社会のことを観客に考えさせる。サスペンス映画でこういうことができる映画はなかなかないし、好感が持てるものだ。すべてが大団円ですっきりとする作品もいいが、こういうリアルな作品ももっと見れたらいいと思う。