ナミイと唄えば
2007/8/26
2006年,日本,98分
- 監督
- 本橋成一
- 原作
- 姜信子
- 構成
- 村本勝
- 撮影
- 一之瀬正史
- 山田武典
- 土井康一
- 音楽
- 温井亮
- 出演
- 新城浪
- 玉川美穂子
- 大田静男
- 姜信子
自称沖縄最後のお座敷芸者のナミイおばぁ、石垣島で生まれ、8歳で那覇は辻町の料亭に芸者として売られ、三味線引きとしての人生が始まる。85歳となったおばぁは浅草木馬亭の舞台に立ち、浪曲師玉川美穂子の語りの下、唄を唄い、人生を語る。
『アレクセイと泉』の本橋成一が沖縄の破天荒なおばぁを主人公にして撮った痛快ドキュメンタリー。おばぁの不思議な魅力が全開。
おばぁが最初に登場して唄うとき、その唄はどうも調子っぱずれに聞こえる。確かに年の割には声がよく出ているのだが、聞いたことのある曲も「こんな曲だったかなぁ?」と首をひねるような調子で唄うのだ。しかし、映画を見進めるにつれてこの調子がなぜか魅力的に聞こえてくる。ナミイおばぁ独特の調子、それは「うまい」というのとは違う不思議な魅力を持つ「味」なのだろう。
そして、そこにはやはりおばぁの経験してきた人生が聞いているのだろう。この映画はナミイおばぁの人生を語る物語であるようで実は詳しく人生を語っているわけではない。子供のころに辻町に売られた話や、叔父に買い戻されてサイパンに行った話、その後さらに台湾に行った話などが語られるが、それはどれも断片的で、そこからおばぁの人生の全貌が明らかになるわけではない。子供たちの父親となる「お父さん」との関係もあまり明瞭ではないし、子供をどう育てて、そこにどんな苦労があったのか、ということもわからない。
そのおばぁの人生をきっちりと描いてみるというのもひとつの方法だったかもしれないし、それは非常に興味深い題材だ。でも、この作品のようにおばぁの“唄”に集中して、その唄に語らせるというのもいい方法だと思った。あるいは、おばぁに聞いても細かいところはわからず、物語にするのは無理だったのかもしれない。おばぁはいつも過去よりも未来を見ているから。
そして、このおばぁの姿勢がなんと言ってもこの作品のいいところだ。おばぁは過去に拘泥しない。子供のころに芸者に売られ、竹の棒で殴られ、買い戻されたら戦争、戦争が終われば米軍、と次々に厳しい環境の中で生きていたであろうおばぁがかくも明るく生きている。“カレシ”の大田静男さんが戦中になくなった中国人・韓国人のために碑を建てた話を聞いたところでは涙を流しながら「ありがとう」と言い、台湾のハンセン病患者の療養所では手作りのテープをみんなに配る。
この台湾のハンセン病療養所でのシーンは印象的だ。彼女はここで、いろいろな唄を唄い、軍歌や日本の同様では聞いている人々も唱和する。台湾が日本の植民地だった時代は彼らにとって幸せな時代だったとは思えないが、おばぁはそんな記憶を呼び覚ます唄さえも唄わせる。
台湾でおばぁはかつて高砂族と呼ばれたプユマ族の人々の前で「サヨンの鐘」を唄い、歓迎される。「サヨンの鐘」は映画にもなった戦中の(日本にとっての)美談だが、台湾原住民は比較的親日感情が強いというから、戦争中台湾にいたおばぁも彼らと交流があったのかもしれない。
とにかく、おばぁはそんな複雑な過去も唄って忘れてしまう。そのパワーはとにかくすごい。これなら本当に百と二十歳まで唄って踊ってすごせそうだ。私たちもおばぁからパワーをもらって明るく楽しく、でも優しく生きて行きたいものだ。