更新情報
上映中作品
もっと見る
データベース
 
現在の特集
サイト内検索
メルマガ登録・解除
 
関連商品
ベストセラー

転がれ!たま子

★★.5--

2007/9/17
2005年,日本,103分

監督
新藤風
脚本
しんどうぎんこ
撮影
佐々木原保志
音楽
磯田健一郎
出演
山田麻衣子
岸本加世子
竹中直人
松澤傑
与座嘉秋
ミッキー・カーチス
広田レオナ
松重豊
preview
 子供のころから用心深く育ったたま子は、鉄兜をかぶって何年も街から出たことがない。そのたま子が母に大好きな甘食代を自分で稼げといわれてアルバイトをすることに。さらに、その甘食を買う日進月歩堂のじいちゃんが病気で倒れてしまい、たま子は甘食を求めて街を出る決心をする…
  新藤兼人の孫新藤風の長編第2作。主演はこれが映画初主演となる山田麻衣子。ガーリーな雰囲気はいいが、映画としての見ごたえは今ひとつ。
review

 山田麻衣子はいわゆる個性的な美人という感じでスクリーン栄えする。この作品にも出ている広田レオナの若い頃をどこか思い出させる顔立ちで、個性派の美人女優になってくれるかなという期待を抱かせる才能だ。
  その山田麻衣子演じるたま子が鉄兜(というよりは金属で覆ったヘルメット)をかぶり、甘食さえあれば幸せで、狭い街から一歩も出ようとしないという設定は、つまり自分の殻に閉じこもり外の社会を拒否する若者の暗喩であることは明らかである。つまりこれは、自分の殻を破れない若者への応援歌、自分の好きなものをきっかけに社会に出れば、そこで何かを見つけることができるはずだというメッセージなのだろう。
  そんなわかりやすく、若者らしいメッセージを打ち出した作品だが、面白いのはそのストーリー展開とたま子の物語よりも周りで起きる瑣末なことである。弟は母の親友のマーブルさん(広田レオナ)に感化されてバスガイドになりたいと言い出し、たま子にずっと惚れていた幼馴染のトラキチは突然たま子の母タツコへの愛に気づく。
  そのあたりのとっぴな展開のあまりに突っ込みどころ満載なところがこの映画の一番面白い部分だと思う。タツコがやっている美容室で働く平岩紙もいい味出してるし、いい作品になる要素は十分にそろっているのだが、どうもこの作品はしっくり来ない。それは、作品が全体的にちぐはぐな感じを与えるからではないか。たま子は自分の殻に閉じこもっているために、こんな楽しい家族ともどこかで隔絶している。そしてたま子は自分の幻想的な世界に入り込み、少年の幻を見たり、幻の穴に落ちたりするわけだが、そのたま子の世界と周辺の世界が混ざり合う瞬間があまりに少ないのだ。たま子は外の世界に出るとはいえ、そこでは家族は置き去りであり(あるいはたま子が置き去りにされているのか)、たま子はまた別の世界で閉じこもるだけにも思えてくる。
  そして、唐突に使われるCGも世界全体のまとまりをなくす原因のひとつだろう。全体的にはレトロでアナログな雰囲気なのに、そこに唐突にCGが入ってくる。それはたま子の心理を表現したものなのだけれど、果たしてそれをCGで現実化する必要があったのか。映画は映像で語るメディアではあるけれど、すべてを映像で見せてしまうのは観客の想像力を奪い、映画からはみ出ていくのを邪魔する。CGで見せなくてもわかることは観客に想像させたほうが世界に広がりが生まれ、印象に残りやすくなる。
  この作品で新藤風という監督の能力を云々する気はないが、この作品に限って言えばまだまだ未熟といわざるを得ないだろう。脚本は結構いいと思うのだが、それをまとめきる技量がまだないというところだろうか。ちなみに脚本のしんどうぎんこは児童文学作家で新藤風の叔母ということらしい。つまり、プロデューサである新藤次郎の妹で新藤兼人の娘ということ。身内感たっぷりの作品ですが、試写を見た新藤兼人さんは「君たちは僕の意見を一つもきかなかった!」と嘆いたそうで、やはり巨匠の言うことは聞くべきだったということでしょう。
  次郎プロデューサは娘にかまけるより、ぜひ兼人監督の新作の準備に奔走していただきたいところです。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本90年代以降

ホーム | このサイトについて | 原稿依頼 | 広告掲載 | お問い合わせ