ブラザー・ハート
2007/9/28
I'll Sleap When I'm Dead
2004年,イギリス=アメリカ,103分
- 監督
- マイク・ホッジス
- 脚本
- トレヴァー・プレストン
- 撮影
- マイケル・ガーファス
- 音楽
- サイモン・フィッシャー・ターナー
- 出演
- クライヴ・オーウェン
- シャーロット・ランプリング
- ジョナサン・リス=マイヤーズ
- マルコム・マクダウェル
ロンドンで友人にドラッグを売るデイビー、ある夜恋人の家から帰る途中で見知らぬ男たちに捕まりレイプされる。朝、部屋へと帰ってきたデイビーは服を着たままバスタブにつかり、ついに自殺する。その死体を発見した親友は行方知れずの彼の兄ウィルに連絡を取ろうとするが…
イギリスの鬼才マイク・ホッジスが“新ジェームズ・ボンド”クライヴ・オーウェン主演で撮ったクライムサスペンスだが、不思議な味わいの映画。
この映画はとにかく暗い。始まるのは夜、序盤のパーティーのシーンはさすがに明るい室内が映されるが、その一瞬が終わるとまた夜のシーンが続き、そのままデイビーは白髪のおっさんにレイプされ、絶望的な朝を迎える。明け方のほの明るい中を彼は部屋に戻るが、彼のところに光は届いていないだろう。その後も夜のシーンが中心で、昼間のシーンのほとんどは薄暗い室内が舞台となっている。
そして、そのような物理的な暗さもそうだが、物語も暗い。自殺した弟の自殺の真相を知るために街に戻ってくる兄、以前はその街の顔役だったのだが、何かがあって街を後にし、古臭いバンで放浪生活を送っていた。浮浪者じみた格好になったそのウィルの姿には常に影が伴い、街に帰ってきて別れた恋人と会っても会話はほとんどない。
この暗さはロンドンの街の雰囲気と重なって陰鬱さを増し、どうも重苦しいが、これがこの作品の“味”であるともいえるだろう。映画というのは物語を楽しむものでもあるけれど、雰囲気を味わうものでもある。能天気に明るい映画もあれば、陰鬱な映画もある。暗さというのあはフィルム・ノワールに代表されるように“格好よさ”につながることもある。暗さとはそこに何かが隠されていることをほのめかし、その秘密めいた雰囲気は格好いいのだ。この作品にもそのことは言え、この暗く秘密めいた男ウィルは確かに格好よくもある。暗い物語のさらに暗い主人公はある種のアンチ・ヒーローとして観客に訴えかけてくるのだ。
ただ、どうもこの物語の基盤となっている兄弟の絆の強さというのがいまいち見えてこない。兄弟といっても千差万別、仲がよかったり悪かったりするもの、この兄ウィルは弟のために自分が拒否してきたものに再び向かい合うわけだが、兄にそこまでさせる絆がこの兄弟の間にあったということがいまいち描かれていない。それに、それほどまでに絆が強いなら、なぜ弟をひとり置いて放浪の旅などに出たのか。大物である兄という後ろ盾を失った弟がどのような境遇に陥るのかは少し想像してみればわかりそうなものだが…
そのあたりのことがあってこの主人公にはいまいち感情移入できない。もちろん強大がむごい目にあって自殺をしたなら、その理由となった人物を恨むのはわかる。しかし、それが復讐心にまで熟成されるその過程を描かなければ、それを実感に変えるのは難しい。
ハードボイルドといえばハードボイルドなのだろうが、その割りに心理的な葛藤に代わるものが描かれているわけでもなく、なんとも後味が悪い。この後味の悪さも制作者の狙いという気もするが…