サリヴァンの旅
2007/10/6
Sullivan's Travels
1941年,アメリカ,90分
- 監督
- プレストン・スタージェス
- 脚本
- プレストン・スタージェス
- 撮影
- ジョン・サイツ
- 音楽
- レオ・シューケン
- チャールズ・ブラッドショウ
- ジグムンド・クラムゴールド
- 出演
- ジョエル・マクリー
- ヴェロニカ・レイク
- ロバート・ワーウィック
- ウィリアム・デマレスト
貧しい人々を描く映画を撮りたいと考えるコメディ映画監督のサリヴァンは貧しい人たちの生活を知るために浮浪者の格好をして旅に出ることに。しかしなぜかハリウッドに戻ってきてしまい、そこで家に帰るところだという女優志望の美女に出会う…
コメディ映画の巨匠プレストン・スタージェス自身のコメディ作家としてのポリシーを宣言したような作品。
映画の前半は徹底したスラップスティックコメディでなかなか面白い。サリバンが旅に出てすぐ、超スピードの車でスタッフのトレーラーを振り切ろうとするシーンに、そのトレーラーの中で転換されるどたばたのアクションはいかにもな感じだが面白い。映画の後半で、主人公のサリヴァンがどたばたコメディアニメを見てコメディの面白さを見直すように、コメディの基本はやはりどたばた、サイレントの長い歴史で培われてきたスラップスティックの面白さはやはりハリウッドというところだろうか。
そして終盤は変わってシリアスなストーリーとなる。浮浪者に化けての旅でそのつらさを実感したサリヴァンだが、結局それはその生活がいやになったからやめるというだけのことで、果たしてそれが本当に貧しさを知ったということになるのだろうかという疑問が沸く。だから、それだけではもちろん終わらない。その安易な体験から貧しい人々に施そうと考えたサリヴァンはさらに苦しい境遇に追いやられるのだ。
しかし、それでもどうも中途半端というか、結局金持ちの映画監督の視点からは逃れられない。最終的にコメディに立ち戻るという展開はいいのだが、結局それとつらい境遇の体験は結びついていないように思えてしまう。
それはつまり、結局スタージェスはコメディ作家であり、社会派映画は撮れないということだろうか。この作品の中でサリヴァンは社会派映画を撮ることではなく、コメディを撮り続けることで貧しい人々のために尽くそうと考えたわけだけれど、それはスタージェスのモーションに過ぎず、結局社会派映画が撮れないことの言い訳に思えてしまう。
本当のところ、スタージェスはそんなことを考えず、コメディ映画を撮っていれば、それなりに面白い作品が撮れるのだから、わざわざこんな回りくどい作品を作らないで、コメディを撮っていればよかったのではないか。もちろん、作中でも言われるように時代というものもある。この作品がとられた第2次大戦のまさに真っ最中にコメディを撮るには、それなりの理由付けが必要だったのだろう。
この作品自体はまあまあの出来だけれど、プレストン・スタージェスという監督を観るについては、不可欠の作品だという気がする。この時代のハリウッドのコメディ映画は今見て笑うというのはなかなか難しいが、単純な笑いはやはり面白い。スタージェスの単純な笑いが、単純な動機から出たわけではないということをこの作品は説明し、理解を求める。実際そんなことはどうでもいいといえばいいのだが、映画が現実社会と密接にかかわるものであるということを考えると、それも無視できないことなのだろう。
小難しいことは考えず、単純に楽しみたい作品ではあるが…