ナイトビジター
2007/10/8
The Night Visitor
1970年,イギリス,106分
- 監督
- ラズロ・ベネディク
- 原案
- サミュエル・ローカ
- 脚本
- ガイ・エルムズ
- 撮影
- ヘニング・クリスチャンセン
- 音楽
- ヘンリー・マンシーニ
- 出演
- マックス・フォン・シドー
- リヴ・ウルマン
- トレヴァー・ハワード
- ペール・オスカルソン
雪の中を下着姿でさまよう男、その男セーラムは医者のアントンのかばんに細工をし、知り合いのブリットのところへ行く。実は彼は精神病者用の刑務所に収容されている囚人で、彼を陥れた妹とその婿のアントンに復讐するために刑務所を抜け出してきたのだった…
スウェーデン出身の俳優マックス・フォン・シドー主演のイギリスのサスペンス映画の佳作。非常にシンプルな作品だがなかなかのスリルと怖さがある。
罪を着せられ、さらに精神病と診断されて刑務所に入れられた男が復讐するというストーリだが、その復讐する相手が家族というところで物語はかなりシリアスなものとなる。復讐をする男セーラムは妹とその夫に陥れられ、刑務所に入った。そのため今度はその夫アントンに罪を着せるために殺人を犯していくのだ。
物語の核心は刑事がこの連続殺人事件を以下に解決するのかということにあるが、セーラムが犯人であることをあらかじめ知っている観客としては、セーラムがいかにして刑務所から抜け出して殺人を犯しまた戻るのかということももうひとつの興味になる。そして、その脱獄の方法が中盤あたりで明らかになると、物語はさらに殺人を犯してアントンに罪を着せようとするセーラムと、刑事との対決という色彩を濃くする。
この中盤の脱獄のシーンは観客をセーラムの側に引き込むのに寄与している。さまざまな手を尽くし、難しい状況を乗り越えてでも復讐を成し遂げようとするセーラムに観客は寄り添っていくのだ。 しかし、同時に復讐のために愛する妹までも殺してしまうセーラムに対する反感も観客には宿る。その背反する感情を抱えながら、観客は物語を最後まで見届けることになり、そこには憎悪の恐ろしさと後ろめたさが人間に及ぼす影響が浮き彫りになっていくことになる。そして、ラストはそのような観客の感情に見事にマッチするエンディングで終わる。重たく暗い想いが残るので痛快というわけには行かないが、納得は行く終わり方だ。
特に凝った演出も、あっと驚くどんでん返しもないが、イギリスらしい暗さもあって見ごたえのあるサスペンスとなっている。
そして、それを盛り上げているのが巨匠ヘンリー・マンシーニの音楽である。彼の音楽はそれだけでそれぞれの場面の意味を観客に悟らせ、言葉以上にものをかたり、シーンの意味を固定させていくのだ。それ自体にはそれほど意味があると思えないシーンでも、彼の音楽によって「何かが起こる」ということがわかるのだ。それもこの作品が能弁なサスペンスになっている大きな要因のひとつだろう。
この作品の主演であるマックス・フォン・シドーはスウェーデン出身の俳優で、ベルイマン作品の常連として名を上げ30代でアメリカに進出、脇役として『エクソシスト』などに出演、88年のペレではアカデミー主演男優賞にノミネートされている。現在も名脇役としての活躍は続き、最近では『マイノリティ・レポート』や『ハイジ』『ラッシュアワー3』などに出演している。