深呼吸の必要
2007/10/9
2004年,日本,123分
- 監督
- 篠原哲雄
- 脚本
- 長谷川康夫
- 撮影
- 柴主高秀
- 音楽
- 小林武史
- 出演
- 香里奈
- 谷原章介
- 成宮寛貴
- 金子さやか
- 長澤まさみ
- 久遠さやか
- 大森南朋
沖縄の離島にきび刈りのアルバイトにやってきたひなみ、古参の田所に支持されながら仕事を始めるが、一緒に働くことになった4人は互いに打ち解けようとしない難物ばかり、なれない作業もちっとも進まずいらいらばかりが募る…
『月とキャベツ』などの篠原哲雄が監督した青春群像劇。離島の雰囲気と旬な役者たちが何人も出ているというところが見所か。作品としては平凡なもの。
キビ刈りというのは本当に重労働で、たくさんの若者が沖縄本島や本土から行くという。特に離島の小規模なサトウキビ農家は経営が大変で、アルバイトというよりは援助ボランティアという形が多い。だから、こんな実情も知らないわがままな若者ばかりが集まるということもなかなかないと思うのだが、まあそこは物語り、それぞれがそれぞれに何かを抱えてやって来たという設定でも致し方ないだろう。
しかし、この若者たちが抱えているものというのがよくわからない。香里奈が演じるひなみが主人公ということになっているが、彼女についてのエピソードはまったく語られず、彼女が何を求めてキビ刈りに来たのかがよくわからない。5人の中では一番素直で、一番社交性があり、何かやむにやまれぬ事情を抱えてきたとも思えないし、このバイトが割りがいいとも思えない。
そして他のメンバーも大半がどうも理解できないキャラクターである。いきなり世間知らずを露呈するわがまま娘というキャラクターを振られた悦子はまあ南の島でバイトという響きだけでやってきたのだろうと想像はつくが、いまどきこんな若者が本当にやってくるのだろうかという疑問は浮かぶ。成宮寛貴演じる大輔もいちいち突っかかってくるが、そもそもそんな態度をとるのなら、どうしてこんな閉鎖的な環境にやってきたのか。こんな閉鎖的な環境でそんな態度を取ったら孤立するのは当たり前で、それを求めてきたのだったらただのマゾだし、そんな態度をとっても受け入れてもらえることを期待してきたのならとんでもない自己チューだ。長澤まさみ演じる加奈子も同様に何もしゃべらずまったく打ち解けようとしない態度でやってくるというのは、「こんな自分でも受け入れてくれるだろう」という期待だけで自分は何もしようとしない自己チュー以外のなにものでもない。
谷原章介演じる医者の悠一だけは、心情が詳しく語られることもあって理解できる。厳しい環境の仕事の中で行き詰まった自分の何かを破るために違った環境で単純な肉体労働に従事しようというのは理解できる目的だ。
そう考えると、悠一以外のメンバーは仕事に何かを求めているのではなく、そこで出会う人に何かを求めているにもかかわらず、自分から打ち解けようとはしないというところにどうも納得いかないところがあるということなのだと自分なりに理解できてくる。
まあ、いいように解釈すれば、自分では“人”に何かを求めていることにすら気づかずに、なんとなく何かがあるんじゃないかと思ってやって来た若者がそこで人と触れ合うことで、自分が求めていたものは人との交流であることを理解し、そこから何かを受け取って自分の殻を破っていくということなのだろうけれど、そのような物語を描こうとしているにしては葛藤とか交流とかがあまりに描かれていなさ過ぎる。
南の島の風景というのはやはり人を癒してくれるし、サトウキビ栽培の厳しさというのを教えてくれるという面はあるが、ドラマという点ではなんとも腑に落ちない点が多い。篠原哲雄は『月とキャベツ』や『洗濯機は俺にまかせろ』あたりではいい味わいの作品を作っていたのだが、このところはどうも“売れる”映画を作らされているようで残念だ。無名の役者を使ったような地味な作品のほうが彼のよさは生かされる気がする。