キングダム/見えざる敵
2007/10/12
The Kingdom
2007年,アメリカ,110分
- 監督
- ピーター・バーグ
- 脚本
- マシュー・マイケル・カーナハン
- 撮影
- マウロ・フィオーレ
- 音楽
- ダニー・エルフマン
- 出演
- ジェイミー・フォックス
- クリス・クーパー
- ジェニファー・ガーナー
- ジェイソン・ベイトマン
サウジアラビア、リアド、外国人居住区でソフトボールの試合が行われていた昼下がり、警官の扮装をしたふたりの男が機関銃を乱射、さらに爆発が起こり300人以上が犠牲となった。そこに親友のフランが含まれていたことを知ったFBI特別捜査官のフルーリーは現地に行こうとするが、国防省は外交上の理由から首を縦に振らない。痺れを切らしたフルーリーは在米サウジアラビア大使と直接交渉に向かう…
『コラテラル』のピーター・バーグが1996年に実際にサウジアラビアで起きたホバル・タワー爆発事件をヒントに「テロとの戦い」の意味を問うた作品。
今ホットなイラク戦争の背景のひとつといえるサウジアラビアとの関係を題材にした映画だが、実際見てみると社会派というよりは単純なアクション映画だ。実際、この作品のクライマックスは主人公達とテロリストが銃撃戦を繰り広げるアクションシーンであり、この物語が示唆する“テロとの戦い”の解決へ向けた努力ではない。そのように割り切って、ハリウッド的なアクション映画としてみれば、まあそれなりの出来という感じだ。ジェイミー・フォックスとジェニファー・ガーナーというやや地味なキャスティングが意外とアクション映画にはあっていて、主人公達が善でテロリストが悪と割り切れば、痛快ともいえるものになるのかもしれない。
しかし、そのようなアクションを中心とした映画であるにもかかわらず、この作品にはメッセージもこめられてしまっている。そのために単純なアクション映画としてみることを難しくしてしまい、作品全体としてどうにも後味の悪い腑に落ちないものとなってしまっている。
この作品はおそらく、アメリカの中東政策に一定の疑念を提出しているのだと思う。石油によってサウジアラビアの王室とアメリカとが結びつき、王室が石油からの利益を独占していることを批判しているのだろう。そして、アメリカがその王室の側に与して王室の浪費と搾取を黙認していることに疑念を呈しているといえる。そして、外国人(=アメリカ人)と外国の力によってイスラム教徒を搾取する王室に対してテロを行うテロリストを暴力で押さえ込もうとするそのやり方の無意味さを示唆するのだ。
しかし、そのところが腑に落ちない。この映画はアクション映画としての勧善懲悪というシナリオと、アメリカの中東政策に対する疑問というメッセージが矛盾してしまっているのだ。アクション映画という見方をすればテロリスト把握でFBIと警察は善であるはずなのに、その活動自体に疑念を呈する。
しかも、最初はFBIに対して不信感を抱いていた大佐(=王室/国家に忠誠を誓う官吏)が徐々に打ち解けチームとしてテロリストに対峙するというおまけも付く。そしてその中で、そのアル・ガージ大佐とフルーリーが“息子を愛する父親”として重ねられるのだ。つまり、そこで観客はFBIとアル・ガージの側に立ち、テロリストを倒すことでカタルシスを感じるように仕向けられているはずなのだ。そして、その上でそれを覆すことで観客に衝撃を与え、アメリカとサウジアラビア政府のやっていることに疑問が沸くということになるはずなのだが、この作品はそのようなカタルシスが生まれる前にその体制への疑問が明らかになってしまい、終盤は焦点が定まらなくなってしまうのだ。
さらに言えば、社会派映画というのはリアリティがあることが重要であるはずなのに、この主人公達の不死身さはあまりにうそ臭い。十数人のテロリストに取り込まれた銃撃戦で負うのはかすり傷だけ、テロリスト達はばたばたと死んでいくが、主人公達は撃たれもしない。こんなリアリティを欠いた銃撃戦では「テロとの戦い」という事実もリアルには見えなくなってしまう。
結局これはアメリカの中東政策に疑問を呈するというモーションをしながらアメリカそのものには疑問を投げかけず、中東の国々と人々に対する自分達の優越を宣言しているに過ぎない。最後まで言ってしまえば、殺されたテロリストの指導者は「仲間が奴らを皆殺しにする」というけれど、ひとつの組織をもってして4人のFBI捜査官すら倒せなかった彼らにそんなことが出来るはずはないと思えてしまうのだ。彼らは何度立ち上がってもアメリカによって皆殺しにされる。この映画が語っているのはそういうことだ。にもかかわらず、FBIはこれを勝利と呼ぶ。こんな後味の悪い終わり方はない。
この後味の悪い終わり方によって、その無意味さを主張していると見ることが出来ればいいのだけれど、とてもそうは思えない。
このもやもやした感じが、考える出発点になるといえばなるのだが、やはりなんとも…