デンジャラス・パーキング
2007/10/20
Dangerous Parking
2007年,イギリス,109分
- 監督
- ピーター・ハウイット
- 原作
- スチュアート・ブラウン
- 脚本
- ピーター・ハウイット
- 撮影
- ゾラン・ヴェルジェコヴィッグ
- 音楽
- アンドレ・バロー
- 出演
- ピーター・ハウイット
- サフロン・バロウズ
- ショーン・パートウィー
- アリス・エヴァンス
- トム・コンティ
酒にドラッグにタバコに女、カルトな映画監督として有名なノア・アークライト、今日も酔っ払った状態で講演にかかろうとするところでグラマラスな美女キルスティンを見かける。一方、しらふのノアが親友のレイに薦められて美人チェリストをお茶に誘うという時間の流れも平行して展開する。
『スライディング・ドア』の監督ピーター・ハウイットがスチュアート・ブラウンの“Dangerous Parking”に感銘を受けて、自ら主演して撮ったコメディドラマ。はちゃめちゃな中にしっかりとしたドラマをこめた作品。
最初は変な金髪に染めた主人公が男女に終われるシーンから始まる。このシーンの意味は少し後で明らかになるのだが、このシーンを含んだ金髪のノアともとのダークブラウンの髪のノアの2つの時間が平行して展開される。金髪のノアのほうはドラッグと酒に溺れ、女アサリをする男、自然の髪のノアのほうは親友のレイの薦めでクレアと出会い、それを進めていく男である。
前半は金髪のほうが中心で、この金髪男のハチャメチャな行動で笑わせる。常に酒とドラッグでらりった状態のノアの行動はぶっ飛んでいて、映像のほうも無駄に(といっては失礼だが)CGなんかを駆使しておかしさを生み出している。イギリスのコメディというのは日本人の笑いのつぼとはずれているものが多いのだが、この作品はアメリカのインディペンデント作品のようでなかなか笑える。
中盤からは金髪の男は去り、自然の髪のノア(こちらのほうが時間的に後の出来事であるとわかる)のほうが中心になる。ここに至るとコメディというよりシリアス・ドラマの要素が強くなり、最終的には感動物語になる。しかもそれは決して安っぽいものではなく、しっかりと作りこまれたものだ。
前半のハチャメチャなコメディと後半のシリアスなドラマ、その両立を可能としているのは主演のピーター・ハウイットの存在感によるところが大きいと思う。このピーター・ハウイットは80年代からTVで役者として活躍、98年に『スライディング・ドア』で監督としてデビューして注目を集めた。役者としては泣かず飛ばずで、監督として才能を開花させたわけだが、この作品を見るとなんのなんの役者としても十分な力量を持っているように見える。確かに演技派というわけではないが、コミカルで味わいのある演技をしているように見える。
もちろん全編がこのピーター・ハウイット演じるノア自身のモノローグによって展開されるというのも、観客がノアに感情移入しやすくしているわけだが、そのやり方もうまく利用して観客を「ノアの世界」に見事に引き込んでいると思う。
実は最初は自らが主演する予定ではなかったらしいのだが、キャスティングの問題でそう決めざるを得なくなり、しかし原作にほれ込んでいたピーター・ハウイットにしてみれば、そのほうが結果的にはよかったということになったらしい。主役であり、全編にモノローグを入れるという役回りはこの物語に相当入れ込んでいなければ効果的にやることは難しく、すべてを一人でやったというのは確かに結果的によかったように思える。
この作品はインディペンデント色の濃い作品だが、決して一般受けしない作品というわけでもないと思う。前半はカルト作品っぽい雰囲気もあるが、決してマニアックにならないように展開に工夫がなされており、後半のシリアスな部分にうまくつながるようになっている。見た目はとっつきにくいが実際に話してみるとやさしい人のような感じでなかなか好感が持てた。
言うなれば、つっぱって走り続けてきた若者が中年に差し掛かって足を止めざるを得なくなってしまったが、立ち止まってみると、その静止した世界にもすばらしいものはたくさんあったと気づくというような… というのとは少し違うが、まあ簡単に言ってしまえば人生つらいこともいろいろあるが、そう悪いもんじゃないってことかな。