トリック
2007/10/25
Sztuczki
2007年,ポーランド,95分
- 監督
- アンジェイ・ヤキモフスキ
- 脚本
- アンジェイ・ヤキモフスキ
- 撮影
- アダム・バイェルスキ
- 音楽
- トマシュ・ガッソフスキ
- 出演
- ダミアン・ウル
- エヴァリナ・ヴァレンジャク
- ラファウ・グジニチャク
- トマシュ・サプリック
- ヴァナ・フォルナルチック
姉と母と3人で暮らす少年ステフェクは姉についていった駅のホームで見かけたおじさんを顔も見たことない父親だと思い込む。駅や線路で過ごしたり、姉のボーイフレンドと遊んだりしながらもステフェクはそのおじさんのことが気になってしょうがない…
のどかな町に暮らす少年の日常の冒険を描いたドラマ。不思議なおかしさともどかしい感じの展開に独自の味わいがあって面白い。
この不思議な雰囲気はほかの映画ではあまり見ない感じだ。ポーランドといえばすぐに思いつくのはキェシロフスキだが、フランス映画に近いヨーロッパらしさを持つ彼の映画とは明らかに違い、どちらかといえば北欧の雰囲気に近い映画だろうか。
この映画の中心はなんと言っても主人公のステフェクだ。夏休みだかなんだかわからないが、毎日町をぶらぶらしているステフェクは駅で見かけたおじさんを幼いころに出て行ってしまった父親だと思い込むわけだが、別にだからといって何をするわけでもない。彼の生活は駅にいったり、線路に人形を置いて電車が通過するときに倒れるかどうかを試したり、足の悪い爺さんが飼っている鳩を飛びたせることができるかどうかを試したり、姉のエルカの就職活動についていって成功するように手を結んで待っていたりということで費やされる。
そんな中エルカはステフェクに“トリック”を見せる。一番はなかなか売れないりんご売りのりんごを見事にみんな売らせてしまうトリックだ。これは見ていてなかなか感心するやり方で面白い。
そんなことがありながらもステフェクの生活は平穏に続いていく。しかし、おじさんはやはり気になり、姉の反応からみても本当に父親なのかもしれないという可能性は感じさせる。そこでステフェクも“トリック”を使おうとし始めるのだが、彼のやっていることは今ひとつ狙いがわからず、「なんだろな」と思わせるだけで、何かが起こりそうで何も起こらないまま映画は進んでいくのだ。このあたりが北欧っぽいのだが、全体的には光もあふれ、暖かさもあってカウリスマキに代表される北欧の重く暗い雰囲気はない。
終盤は、実際にステフェクのトリックが功を奏し、おじさんが本当に父親かどうかがわかっていくという展開になるのだが、この作品の本質はその謎解きにあるのでも、そのトリックにあるのでもない。この映画はあくまでもこのステフェクという少年の日常と心情を描いたものなのだ。彼の子供らしい散漫な注意や強い思い込み、その中で姉に対しては信頼感をもち、まだ見ぬ父に憧れを抱く。そんな少年の日常を淡々と描いたのがこの作品なのだ。
ステフェクの日常はほほえましくも少し哀しい。でもお姉さんやお母さんやお姉さんのボーイフレンドや近所の人のおかげで彼は日々楽しく過ごせている。その日常を見つめることから見えてくるのは、当たり前の日常の中にある小さなドラマだ。平凡な日常の中にもドラマはある。それは本当に小さなものだけれど、ひとつひとつは大事なものだ。代わり映えがしないように見て、一日一日は必ず違っている。だから一日一日を楽しく、しかしチャレンジして過ごせばいい。
淡々としながらも、少し笑って、少し勇気付けられて、ほっとする。そんな映画だ。