ヘアスプレー
2007/11/2
Hairspray
2007年,アメリカ,116分
- 監督
- アダム・シャンクマン
- 原作
- ジョン・ウォーターズ
- マーク・オドネル
- 脚本
- レスリー・ディクソン
- 撮影
- ボジャン・バゼリ
- 音楽
- マーク・シェイマン
- 出演
- ニッキー・ブロンスキー
- ジョン・トラボルタ
- ミシェル・ファイファー
- クリストファー・ウォーケン
- クイーン・ラティファ
- ザック・エフロン
- ブリタニー・スノー
1962年ボルチモア、かなり太目の高校生トレーシーははダンスが大好きで、地元の人気番組“コニー・コリンズ・ショー”に出ることを夢見ている。そしてある日、そのオーディションがあることを知った彼女はそれに出ようとするが、同じく巨漢の母親は太った人間が受かるわけはないと反対する。しかし、父親にはげまされ、トレーシーはオーディションを受けることにする。
1988年のジョン・ウォーターズ監督の同名映画がブロードウェイ・ミュージカルとなり、それが再映画化されたという作品。60年代の人種差別をテーマにしたミュージカルコメディ。
この作品はとりあえず楽しい。いきなり何の前置きもなく歌で始まる導入部には面食らい、その後もいかにもミュージカルな歌のシーンが続くのであまりミュージカル好きとはいえない私などは、なかなか馴染めなかったのだが、30分もすると映画のリズムやビートに慣れてくるし、意外と物語もしっかりしているのでうまく入っていける。私がグッと映画に入っていけたのは、ジョン・トラボルタ演じる母親が外出をしようというシーンで、1951年から外に出ていないなどと歌いながら外に出て行くところでそのおかしさと映画ならでわのダイナミックな展開に面白さを感じたからだ。
そのあたりからはもう小さな疑問には目をつぶり、ただただ映画を楽しむ。ペニーが補習室のドアをくわえていた飴でノックしてそれをまたくわえるなんていうさりげないギャグに気をとられたりもしながらも楽しめる。
そしてやはり、歌というものにはやっぱり力があるということを感じさせてくれる映画でもある。映画というのは基本的に映像と言葉によって何かを表現するもので、音楽というのは何らかの効果を挙げるためのひとつの手段に過ぎない。しかしミュージカル映画というのはその音楽を前面に押し出して、物語を付随物にしてしまう。そのために物語性に欠け、退屈になってしまうことも多いのだが、その歌に力があればそれだけで私たちに訴えかけてくるものがあるのだ。
この作品でそれを感じたのは、クイーン・ラティファを先頭に黒人たちがデモ行進をしながら歌うシーンだ。クイーン・ラティファの歌は本当にうまいし、ソウルがある。一応歌詞の意味も字幕で出るのだが、それをじっくり読まなくても、その歌を聴けばそのソウルは伝わってくる。回りくどい説明など必要とせず、歌だけでメッセージを伝えることができるのだ。
そして、そこで伝えられるメッセージはもちろん人種差別に関わるものだ。62年という時代は公民権運動が一番盛り上がっていた時代だ。作品の中でもジャッキー・ケネディへの言及があるが、ジョン・F・ケネディのリベラルな政策が黒人たちを勢いづかせ、63年にジョン・F・ケネディは凶弾に倒れるが、同じ年ワシントン大行進が行われ、64年にジョンソン大統領の下で公民権法が成立した。そのような時代の空気を伝えることで、その歴史を伝えようとしているのだと思う。しかし、この作品は決して社会派というわけではない。60年代という時代を描く際にはそれがどうしてもはずせないトピックであり、そのトピックを使うことでドラマが面白くなるということなんだと思う。そのような作り方もなかなか秀逸だ。
ただ、この作品は多少好みが分かれる部分もあると思う。主役を演じたニッキー・ブロンスキーは確かに歌はうまいが、どうも声の質が私には今ひとつしっくり来なかったし、ジョン・トラボルタをどう見るかというのもこの作品を面白いと思えるかどうかにか関わってくると思う。私はジョン・トラボルタはなかなかいいし、笑いの部分をうまく担っていると思ったが、特殊メイクの質がいまいちな所や、ものすごく巨漢(幅だけでなく背も高い)というのがちょっと過剰すぎる部分には疑問がなくもなかった。ここが気になり始めると作品全体が作り物じみて(まあもともと作り物じみてはいるけれど)見えてしまい、作品の世界に入り込めなくなってしまうのではないかと思う。
アメリカだったら、映画館でみんな手拍子をしたり体をゆすったりしながら見ているのが容易に想像できるけれど、こういう映画でも静か~に見ている日本の劇場ではそういう人も相当数いるのではないかと思う。ラジオで誰かが言っていたのだが、オールスタンディングの上映なんかをやったら自然と体が動いて面白いかもしれない。もちろん、DVDが発売されたら個人で家でそれをやればいいのだけれど…
人種差別というトピックが中心にすえられてはいるけれど、舞台となっているのが40年以上前という安心感もあり、それで難しく考え込んだり、沈んだ気持ちになることはない。もちろん差別に対する考え方に甘さはあるんだけれど、とにかく明るく希望を持って楽しく生きればいいんだよというメッセージを届けようという気持ちが伝わってきて気持ちよく見ることができる作品だ。
ジョン・ウォーターズのオリジナルは見ていないのだが、おそらくまったく違う作品だろう。でも見てみたくはなった。