ザ・シンプソンズ MOVIE
2007/12/14
The Simpsons Movie
2007年,アメリカ,87分
- 監督
- デヴィッド・シルヴァーマン
- 原作
- マット・グローニング
- 脚本
- ジェームズ・L・ブルックス
- マット・グローニング
- アル・ジーン
- マイク・スカリー
- 音楽
- ハンス・ジマー
- 出演
- ダン・カステラネタ
- ジュリー・カヴナー
- ナンシー・カートライト
- イヤードリー・スミス
- ハンク・アザリア
- グリーン・デイ
- トム・ハンクス
スプリングフィールドに住むシンプソン一家のダメ親父ホーマーはブタを飼い始める。娘のリサは危機的状況にある地元の湖の美化活動を行い、ついにごみ捨てが禁止されるが、ホーマーがそれを破ってごみを捨てたことでスプリングフィールドに悲劇が訪れる…
18年続く人気TVシリーズの待望の映画化。とはいっても映像もストーリーも豪華になるわけではなく、ただ時間が90分に伸びただけ。しかし、バカっぷりと辛らつな社会風刺は健在でTVシリーズの5倍くらいは楽しめる。日本語吹き替えは予告を見る限り最低だ。
シンプソンズは下品だ。下ネタは連発だし、ホーマーはどうしようもない。この映画版でも、バートが全裸でスケボーに乗って街を疾走する。しかし、そのシーンのつくりが本当に笑える。人の頭とか植木とか、いろいろなもので大事なところを隠して、それを見せないように映像を作り続ける。そして、このアニメはまったくリアルでないために下品であってもグロテスクではなく笑えてしまう。そのあたりは「クレヨンしんちゃん」に似たところがあるのではないだろうか。「ヤッターマン」は実写化できても、「シンプソンズ」や「クレヨンしんちゃん」は実写化できない。しかしまあ下品なことは確かだから、親なら子供にはあまり見せたくないかもしれない。でも子供ってのは下品なギャグが好きなもので、このシンプソンズも子供に受けること間違いなしだ。
そして、バカバカしさもTVと変わらない。私がなんと言ってもつぼにはまったのは“スパイダー・ピッグ”だ。ホーマーがバーガーショップ化何かから逃げてきたブタを飼うことにし、それをやたらとかわいがるのだが(そのあたりの設定の意味もまったくわからないが、ホーマーだから仕方がない。ホーマーの行動にはそもそも意味がない)、ホーマーはそのブタを抱えて、天井に足跡をつけながら“スパイダー・マン”の替え歌“スパイダー・ピッグ”を歌うのだ。その替え歌が実によくできていて、エンドロールにはちゃんとしたバージョンまで披露される(音楽はハンス・ジマーだから本当に本格的なバージョンである)。これは本当にバカバカしくておかしい。
この“スパイダー・ピッグ”に代表されるパロディ精神もシンプソンズの魅力のひとつだ。そのパロディ精神は映画というジャンル内にとどまらず、現実世界の全体に及ぶ。なんといってもおかしいのは大統領がシュワルツネガーだということ(本人が出演していないのが残念だが)だ。シュワルツネガーの政治家としての資質と、アメリカ大統領一般を痛烈に皮肉ったその設定にはニヤニヤが抑えられない。そしてその社会風刺は「シンプソンズ」の社会派アニメとしての側面も明らかにする。「シンプソンズ」は徹底的にくだらないにもかかわらず、社会派アニメでもある。この作品の物語の発端は環境破壊であり、ホーマーは原子力発電所に勤めている。
もうひとつ「シンプソンズ」がいつも語るのは“家族愛”についてだ。“家族愛”というのはどうにもくすぐったいものだが、とにかく下品でバカバカしく、社会風刺にあふれたこのアニメをどうにかまとめているのが“家族愛”なのだ。普段は反発しあっているが、危機に瀕したときにはひとつにまとまる。それが家族であり、それがシンプソン家なのだ。バカでドジなホーマーも家族のためには奇跡を起こせる。それは感動的でさえあるかもしれない。
この映画はオープニングのカンパニー・クレジットからエンドロールの終わりまでまったく目を離せない作品だ。端から端まで余すことなく遊びが盛り込まれ、シンプソンズファンを喜ばせる。エンドロールで驚かされたのは、ひとりの声優がものすごい数の役を演じているということだ。internet movie databaseによれば、ホーマーを演じたダン・カステラネタはホーマー以外に、イッチー、バーニー、おじいさん、クラスティ、市長など21役を演じている。それがシンプソンズの世界観の一部を作っているのだろう。劇場版の日本語吹き替えではそうは行かない。和田アキ子のマギーはひどすぎる… ぜひ字幕版で見るか、DVDにオリジナル声優の吹き替え版が入ることを期待してそれまで待って欲しい。