ペルセポリス
2007/12/21
Persepolis
2007年,フランス,95分
- 監督
- マルジャン・サトラピ
- ヴァンサン・パロノー
- 原作
- マルジャン・サトラピ
- 脚本
- マルジャン・サトラピ
- ヴァンサン・パロノー
- 音楽
- オリヴィエ・ベルネ
- 出演
- キアラ・マストロヤンニ
- カトリーヌ・ドヌーヴ
- ダニエル・ダリュー
- サイモン・アブカリアン
- フランソワ・ジェローム
1978年のイラン、9歳の少女マルジはブルース・リーにあこがれ、幸せな家庭で育っていた。しかし、王制に反対した反政府革命が勃発、マルジと家族も革命に期待を寄せその活動に参加するが、革命は内戦へと発展してしまう…
パリ在住のイラン人マルジャン・サトラピの自伝グラフィック・ノベルの映画化。映像はおしゃれでかわいいが、内容は重い。
これはまず非常に勉強になる映画だ。私たちは日々イスラム世界のニュースを目にするけれど、その歴史についてはほとんど知らない。現在問題となっているイランという国についてもほとんど知らない。この作品で描かれたイラン革命によって気づかれた国家体制は今まで継続しているわけだが、その現在のイランという国がどのようにしてできたかということを私たちはたった30年前のことなのにほとんど知らない。この作品はその“歴史”を一人の少女の目から見ることができるということで非常に勉強になる。王様を素晴らしい人だと信じていた少女が革命思想に染まり、しかし革命がなされると新しい政府はまた異なった弾圧を加える。それは世界中で繰り返されてきたことだけれど、それが30年前のイランでも起こっていたことを知るのは重要だ。
そして、同時にそのような内戦状態の中でもマルジのような若者が若者らしい生活を送っていたことを見られるのもうれしい。パンク少女のマルジがストリートで禁制品のアイアンメイデン(!)のカセットを買う。それが犯罪に当たるかどうかはともかく社会の常識に反抗するような行動を取ると言うのは若者の特権だ。アイアンメイデンはヘビメタでパンクではないけれど、マルジは常にパンク精神を持っていた。まさに“Punk is not Ded”(綴り間違いではありません。マルジのパーカーのメッセージそのままです)だ。
ただ、この主人公のマルジに共感できるかどうかは難しいところかもしれない。女子(女性というよりは女子)なら比較的共感しやすいのだと思うが、客観的に見てしまうとちょっと疑問も残る。マルジが国を出てそこで経験する苦難は理解できるし、そこで出会った数少ない友達との関係もいい。しかしそれがあくまでも主観的に描かれている以上、彼女の感情とその背後の社会との関係は今ひとつ見えてこない。となると、果たしてこの物語は一人の少女を描きたいのか、それともイランあるいはイスラムという社会を描きたいのか、そのあたりがはっきりしなくなってしまうし、両方描こうとしているのだとしたらどちらも描ききれていないと言わざるを得ない。
マルジはそもそも典型的なイラン人の少女と言うわけではない。外国に留学することなどなかなかできなかっただろうし、彼女の家はかなり裕福だ。しかし、彼女の家族はすごく魅力的だ。彼女には父親と母親とそしておばあちゃんがいたからこそ、このような生活を送ることができたし、その思想性をはぐくむことができた。
見方としては社会的なテーマを持つものというよりは一人の少女の私小説的な物語としてみたほうがいいのだろう。そうすればマルジとその魅力的な家族の物語に浸ることができるし、そこからその家族を取り巻く社会に目を向けることもできる。そうすればこの映画は非常な魅力を放つだろう。
ただ、ここで描かれている事実を鵜呑みにするのはやめたほうがいい。物事はここで描かれているよりはるかに複雑だ。当たり前だがマルジには見えていなかったこともたくさんあるに違いない。そのことを念頭において、これがひとつの見方に過ぎないと肝に銘じてみれば、そこから感じ取れる何かは非常に重く、しかし大切なものになるだろうと思う。
原作も読んでみたいな。