パリ・ルーヴル美術館の秘密
2008/1/27
La Ville Louvre
1990年,フランス,85分
- 監督
- ニコラ・フィリベール
- 脚本
- ニコラ・フィリベール
- 撮影
- ダニエル・バロー
- リシャール・コパン
- フレデリック・ラブラス
- エリック・ミヨー
- 音楽
- フィリップ・エルサン
- 出演
- ドキュメンタリー
パリ・ルーヴル美術館に巨大な絵が運び込まれる。そこは学芸員、修復技師、警備員などたくさんの人々が働く働く世界。
カメラは、その人々の活動や、普段は目に触れることの無い美術館の地下、そしてもちろん数多くの美術品を切り取り、ルーヴル美術館という“村”の全貌を明らかにしていく。
『ぼくの好きな先生』などのドキュメンタリー監督ニコラ・フィリベールの出世作となった長編第1作。
「どっからこんな巨大な絵を入れたんだろう?」というのはルーヴル美術館を訪れた人の多くが思う疑問だろう。この映画は重く閉ざされていているように見える壁が実は可動式だったり、十メートル以上ある筒が実は巨大な絵が巻き取られたものだったりということを見せて、その疑問に答えを出す。
ルーヴル美術館というのは普通に見に行ったら決して1日では見切れないような巨大な美術館だ。そのコレクションの時代範囲はエジプトやオリエントといった古代から近代絵画まで数千年にわたり、それこそ世界中の美術品が収集されている。その数はなんと30万点、展示されているのはほんの一部で、その多くは収蔵庫に保管されている。
学芸員の一人がおもむろに扉を開け、階段を降りて行った先はそんな収蔵庫や修復室などがある巨大な地下空間である。この空間は私たちの目には決して触れることは無いが、かなり広大だ。その大きさはどれくらいなのかわからないが(最後に地下通路の長さは13キロとの説明があるがそれで空間の広さがわかるわけではない)、おそらく地上の空間より広いのではないかと思う。
この作品が捉えるのは、私たちの目には触れない美術館の裏側で、そのような地下で作業している修復技術者や金メッキ師などが登場する。さらには、がらんとした展示室で絵の配置を話し合う学芸員やピラミッドの窓を拭く清掃員などが登場する。もちろん、モナリザやミロのビーナスといった名画や彫刻も登場するが、それはこの作品では脇役に過ぎない。
そんな美術館の裏側に興味がある人にはこの作品は面白い作品だと思う。しかもそれは世界屈指の美術館ルーヴル美術館である。
しかし、そういった興味からではなく、一本の映画としてこの作品を見ると、ちょっと退屈だ。この映画はあまりに断片的過ぎてドラマが無い。議論を繰り返すふたりの学芸員や、シャツを忘れてしまった職員など繰り返し登場する人はいるが、彼らを追ってそれが映画の縦糸となっているわけではなく、モザイク状に組み立てられたピースのひとつでしかないのだ。全体としてはがらんとした美術館が観覧者が入れる状態に少しずつなっていくという流れで、それはそれでスムーズではあるのだが、特に説明があるわけでもなく、映画がどこに向かっているのかがわかりにくく、そのためそれぞれの断片を全体に結びつけるのが難しい。
これは1990年の作品なので、あのピラミッドが作られた大改築の際の状況を撮影したもので、改築後の再開に向けた準備を描いたものなのだろう。公開された当時はその改築の記憶も新しく、だれもがすぐにそれとわかり興味深く見ることができたのだと思うが、20年近くたった今では、しばらく見てようやく「ああ、あのときの…」と思うくらいで、なかなかすぐにはピンと来ない。それがいっそうこの作品の散漫さを助長してしまっているわけだ。
この作品が普遍性を獲得するためには、一人の人やひとつの作品といった“主人公”を見出す必要があったのかもしれない。もちろんそれはひとりではなく複数でもいいし、あるいはそこに映らない人(つまりカメラという視点)でもいいのだが、観客がそこにいれば迷うことなく追っていけるという居場所を作り必要があったのではないか。それがあればこの素晴らしい美術館とそれを支える人々をもっと身近に感じることができたのではないかと思う。