ジェリーフィッシュ
2008/3/14
Meduzot
2007年,イスラエル=フランス,82分
- 監督
- エドガー・ケレット
- シーラ・ゲフェン
- 脚本
- シーラ・ゲフェン
- 撮影
- アントワーヌ・エベルレ
- 音楽
- クリストファー・ボウエン
- 出演
- サラ・アドラー
- ニコール・レイドマン
- ゲラ・サンドラー
- ノア・クノラー
テルアビブのホテルでウェイトレスとして働くバティアは不器用で怒られてばかりいる。そのホテルで結婚式をあげたケレンとマイケルだったが、ケレンが骨折をしてしまい新婚旅行は中止、近くのビーチのホテルに泊まることに。
エドガー・ケレットとシーラ・ゲフェンがオリジナル脚本で撮った初監督作品。カンヌ映画祭でカメラドールを受賞した。
浮き輪をつけた迷子を主人公のバティアが見つけ、預からざるを得なくなるというプロットと、その子がどうしてもその浮き輪を話そうとしないというエピソード、そして全体的な映像の印象からこの作品はやや幻想的なガーリーな映画という感じがする。主人公のバティアはつらい失恋をしたばかりで、どこか世の中に絶望しているというのもいわゆる“負け犬”な感じで雰囲気がある。
しかし、実際はそれほど単純なものではなく、結婚したばかりのカップルや女性カメラマン、フィリピン人のヘルパーといった複数の主人公が登場し、現在のイスラエルの現実を複眼的に描くようになっている。結婚したばかりのカップルの新郎のほう(マイケル)がロシア語のほうが得意だったり、フィリピン人のヘルパージョイが介護する老婆がドイツでの記憶を引きずっていたり、イスラエルという国には実にさまざまな人がいる。彼らはユダヤ教という宗教とヘブライ語という言語でつながってはいるけれど、ヘブライ語という言語は親の世代にとっては母国語ではなく学んだ言葉なのである。そして、イスラエルという国が数十年も近隣の国との間で戦争を続けていることも大きく影を落とす。
さらっとみるとフランス映画のような印象を与える映画だけれど、実際に言葉や映像として現れない部分でもイスラエルという国の抱える問題や、そこに暮らす人々が抱える暗さのようなものが垣間見える。
それでも、ここに登場する人たちはほとんどが好感が持てるというか、いい人たちなのだ。それぞれに悩みを抱え精一杯に生きている。イスラエルという国を見てしまうと、どうも問題のある国と思えてしまうが(それはイランなどにも当てはまることだが)、そこに暮らす人々は私たちと変わらない人たちなのだ。それは当たり前のことだけれど、国際政治というマクロな視点に慣れてしまうとついつい忘れがちな事実だ。日本のように本当にさまざまな国から映画が入ってくる国では、そのそれぞれの映画を見ることでその当たり前の事実を思い出すことが出来る。
日本人は国際感覚があるほうではないと思うが、そのようなレベルで世界を感じていられることのほうが重要なのではないかと思う。この主人公のバティアの感じていることやある種の現実逃避に共感できる人は世界中にいると思う。そしてこの作品はそれを言葉に頼らずに表現することで、そのような距離を越えた共感というものを実現していると思う。
それほど「面白い!」という作品ではないが、なんだかじわじわと味が滲み出してくるようでいい。イスラエル映画は最近結構入ってきているから見る機会もあるだろう。となると今度はその近辺のヨルダンやレバノン、サウジアラビアといった辺りの映画も見てみたくなる。