DOOM ドゥーム
2008/3/25
Doom
2005年,アメリカ=チェコ,104分
- 監督
- アンジェイ・バートコウィアク
- 原案
- デヴィッド・キャラハム
- 脚本
- デヴィッド・キャラハム
- ウェズリー・ストリック
- 撮影
- トニー・ピアース=ロバーツ
- 音楽
- クリント・マンセル
- 出演
- ザ・ロック
- カール・アーバン
- ロザムンド・パイク
- ラズ・アドティ
2026年に、地球から火星へと通じる通路“アーク”が発見されてから20年、火星のオルドゥヴァイ研究所で研究員が次々と襲われるという事件が起こった。サージをリーダーとする特殊部隊RRTSは休暇を返上し、事態の収拾に向かう。その隊員のひとりリーパーはオルドゥヴァイに行くことに引っ掛かりがあるようだが…
アンジェイ・ヴァートコィアクが人気シューティングゲームを映画化。B級映画らしいパニック・アクションでなかなか楽しめる。
地球外で謎の生物に襲われるという設定はいやがおうにも『エイリアン』を思い出させるが、しかもこの謎の生物が襲った人間を「エイリアン化」させるとなると、いかにもまったく『エイリアン』な設定ということになる。
そして、そんなエイリアン型のSFパニック映画としては中くらいの出来、すでにアクションスターの仲間入りをしているザ・ロックのごつい体は説得力があり、このエイリアンの正体と誰が生き残るのか、誰がどのように殺されるのか、いつどのように人間がエイリアン化していることに気づくのかという興味を持ってストーリーを追っていける。
そして、終盤には「なるほどこう来たか」というひねりもあってB級映画(といわざるを得ないが)としては十分満足いく仕上がりになっている。
ただ、ザ・ロック以外の隊員がどうも特殊部隊の精鋭には見えないのが残念。新人の“キッド”はともかく、黒人の隊員は「黒人ならいいだろ」的な適当なキャスティングでどうもドン臭く見えてしまう。そしてザ・ロックに次ぐ位置づけのカール・アーバンも優男な感じで今ひとつだ。これもスターをひとりしか使えないB級映画の哀しさか。
しかし、このB級映画であるという点がこの映画が『エイリアン』と一線を画している点でもある。A級映画(とはあまりいわないが大作ということ)では作品全体に何かヒューマニスティックなメッセージが込められていたり、どこかで観客を納得させなければならないし、極端に暴力的であったりしてはいけないという制約がなんとなくあるように思える。
しかし、B級映画にはそれが無いから、この映画は人を殺し放題だし、誰がいつ死んでも裏切ってもいい。それが展開に面白みを与え、中途半端なヒューマニズムでは得られないカタルシスを与える。もちろん暴力的なものに拒否反応を示す人は見てもいやな思いがするだけだと思うが、ここに描かれた暴力はジョン・カーペンターに近いものがあって、そこにはちょっとした現代社会と人間の実情が込められているのだと思う。
ここでばったばったと殺されるのはエイリアンになってしまった人たちだ。しかし、その人がエイリアンになったかどうかまだわからないという段階でその人を殺すことはためらう。しかし、ためらった相手がエイリアンだったとしたら自分が殺されてしまうのだ。ここに存在するのはどこで他者に線を引くかという問題で、恐怖はその線を果てしなく自分のほうに引き寄せる。そうすると少しでもエイリアン化の恐れがあれば殺してしまえということになるわけだ。それはアラブ人と見たら逮捕してしまえというアメリカに似ているし、同じことは歴史上で何度も繰り返されてきたことだ。
もちろん、この作品はそんなメッセージを伝えるために作られたわけではないが、優れたエイリアンものというのは常にそのような他者=エイリアンとの曖昧な境界が問題になり、それが作品を面白くするのだ。
その意味でこの作品はエイリアンものとしては上等の作品、上等のB級エイリアン映画ということになる。アクションとしてはいまいちだが、まあいいだろう。