サイドカーに犬
2008/4/5
2007年,日本,94分
- 監督
- 根岸吉太郎
- 原作
- 長嶋有
- 脚本
- 田中晶子
- 真辺克彦
- 撮影
- 猪本雅三
- 音楽
- 大熊ワタル
- 出演
- 竹内結子
- 古田新太
- 松本花奈
- 谷山毅
- ミムラ
- 鈴木砂羽
- 椎名桔平
- 温水洋一
不動産屋に勤める近藤薫は結婚するという弟とあって20年前、母親が家出をしたときのことを思い出す。突然母がいなくなって数日後、ヨーコという女性が夕飯をつくりに家に来る。大雑把で豪快なヨーコに戸惑いながらも薫はヨーコに惹かれていく。
80年代初頭の日常をリアルに描いたドラマ。子供も大人も楽しめる作品。
舞台は80年代初頭、おそらく82年くらいだと思う。景色もものも今から見るとレトロで、パックマンのゲーム機やガンプラといった子供のカルチャーが時代を表す。
映画はその80年代初頭という時代の日常を非常にリアルに描いていく。60年代ほど昔ではないが、今とは明らかに違う20数年前、町は薄汚れ、テレビやクーラーも今から見るとでっかくて不恰好、決して貧しいというわけではないけれど、洗練された都会というわけでもない。そんな中途半端な時代と場所をリアルに描いた作品というのはなかなかない。
もちろん、そんな時代と場所だからたいしたことは起きず、ドラマにもなりにくく、だから映画なりテレビになりにくいことは確かで、だから作品もあまりないということなのだろう。しかし、この作品は面白い。母親が家出をして代わりに父親の愛人と思われる若い女性がやってくる。しかしそこに生まれるのは軋轢ではなくむしろ友情、そんな友情を通して10歳の少女が成長する。
舞台のリアリティを置くと、この物語を面白くしているのは竹内結子の演じたヨーコのキャラクターだろう。がさつで大雑把だけれど、子供の視線から見ればそれは他の大人とは違う魅力であり、子供と同じ視線からものを見ることが出来る稀有な存在である。父親の愛人が家に入ってくるというと、その父親の気を引くために子供を甘やかすという展開が多いけれど、このヨーコは薫を一人の対等な人間と見て付き合う。子供ってのは意外と見るところを見ているから、子供に取り入ろうとする大人よりもこういった大人のほうになつくものだ。
しかし、同時にヨーコと薫の関係はあくまでも薫の父を通してのものである。ふたりの間にいくら友情のようなものが生まれたとしても、父親とヨーコの関係によって薫とヨーコの関係は決定的に変化してしまう。そのはかなさのようなものもうまく描かれている。
そして、妙におかしいシーンが時々ある。なんてことはない日常にふと訪れる妙におかしい瞬間、誰もが日常の中で経験するそんな瞬間が何度か描かれる。登場人物たちはそれをおかしいとは思っていないのだけれど、見ていると妙におかしい。
それは個々の登場人物が丹念に描かれていることにもよるのだろう。気が弱いのかやさしいのか良くわからない古田新太演じる父親も、ちょい役の椎名桔平やトミーズ雅も、キャラクターがしっかりつけられていて、その行動の一つ一つが納得できる。その上で生まれるギャップが笑いを生む。
ただ、現在のシーンが必要だったかどうかは疑問ではある。まあ物語の導入としてはあってもいいのだろうけれど、最後にまた現在に戻る必要はあったのか。とってつけたようなラストは興をそぐような気がしてならない。
TV局とのタイアップばかりでテレビドラマだか映画だかわからないような映画が多い中で、こういう映画らしい作品というのを見るとうれしくなる。ミニシアターでの上映であまり観客動員もあがらなかったようだが、竹内結子は日刊スポーツ映画大賞や日本映画批評家大賞などを受賞、批評家受けは悪くない映画だったようだ。
何か、面白い日本映画はないかね、というときにはぜひ見て欲しい作品。