大統領暗殺
2008/5/1
Death of a President
2006年,アメリカ,93分
- 監督
- ガブリエル・レンジ
- 脚本
- ガブリエル・レンジ
- サイモン・フィンチ
- 撮影
- グレアム・スミス
- 音楽
- リチャード・ハーヴェイ
- 出演
- ヘンド・アヨウブ
- ブライアン・ボーランド
- ベッキー・アン・ベカー
- マイケル・ライリー・バーク
- ジョージ・W・ブッシュ
- ディック・チェイニー
2007年10月、ブッシュ大統領が演説に訪れたシカゴでは大規模なデモが行われていた。ブッシュ大統領が暗殺されることになるその日の様子を大統領の顧問、シークレットサービスらへのインタビューによって構築、さらに暗殺後の犯人探しを描いていく擬ドキュメンタリー。
日本では邦題を『ブッシュ暗殺』としたために映倫を通らず『大統領暗殺』と変えたことで話題となった問題作。
「ブッシュが暗殺される」というテーマはとてもキャッチーである。アメリカの大統領は実際に暗殺される可能性があるし、ブッシュほど嫌われている大統領ならなおさらだ。だから、もしそれがおこったときにはどうなるのか、というシュミレーションはドラマとして十分に成立するだろうと予想できる。
この作品はそれを擬ドキュメンタリーという形で作り上げた。ブッシュ大統領暗殺を実際に起きた事件とし、その関係者に対するインタビューと資料映像によって事件の全体像を浮かび上がらせるというドキュメンタリーの1つの手法をそのままフィクションとして作り上げたのだ。
結果的には、この擬ドキュメンタリーの出来のよさがこの作品の最大の難点となってしまった。この作品は見た目はドキュメンタリーでその出来があまりにいいのだが、しかしこれが事実ではないということは観客の誰モノが知っているのだ。だから、いくらドキュメンタリーとしての出来がよかったとしても、「これは本当かもしれない」と信じることは出来ないし、どこまでかが真実でどこからかが虚実であるという構成をしていないために、まったく真実性が無いのである。
この作品は、ブッシュの暗殺事件という架空のシナリオを作り、それを外側から分析する形で作られている。それは結局のところ中身のない瓶のまわりだけを飾り立てているだけで、空けてみればやっぱり中身はないのだ。これでは雲をつかむようでなんだか見ていても手ごたえがない。
もちろん、ブッシュが暗殺された結果、それをテロと結びつけ、捜査機関が恣意的に犯人探しをするという展開にすることで現在のアメリカが抱える問題を指摘しようとはしているのだけれど、そんなことは誰にでも予想できることで、すでに陰謀でもなんでもない。それをやるなら、チェイニーが黒幕かもしれないとほのめかすくらいの思い切りがなければ観客を驚かすことは出来ないし、驚いたり笑ったりして何か感情を動かされなければ観客は映画に対して反応せず、そこから何かを考えることもしない。
この作品は結局、センセーショナルな話題で観客をひきつけようという商業主義的な映画に過ぎず、そこには主張も何もない。ブッシュもチェイニーも、FBIもSSも、ムスリムも復員兵もその商業主義に利用されただけ。
この作品そのものも含めて、今のアメリカのいやな面ばかりがあぶりだされる結果となった。見ていて気持ち悪いし、不愉快だし、空恐ろしいが、それが今のアメリカだということを改めて認識させてくれるという点ではいい映画(?)だったかもしれない。
日本もこんな風にならないといいんだけれど… あまり楽観的にはなれないなぁ