それでも生きる子供たちへ
2008/5/9
All The Invisible Children
2005年,イタリア=フランス,130分
- 監督
- メディ・カレフ
- エミール・クストリッツァ
- スパイク・リー
- カティア・ルンド
- ジョーダン・スコット
- リドリー・スコット
- ステファノ・ヴィネルッソ
- ジョン・ウー
- 脚本
- メディ・カレフ
- ストリボール・クストリッツァ
- サンキ・リー
- カティア・ルンド
- ジョーダン・スコット
- ディエゴ・デ・シルヴァ
- ステファノ・ヴィネルッソ
- リー・チャン
- 撮影
- フィリップ・ブレロー
- ミロラド・グルシーカ
- クリフ・チャールズ
- トカ・セアブラ
- ジェームズ・ウィテカー
- ゼン・ニエンピン
- 音楽
- ロキア・トローレ
- ストリボール・クストリッツァ
- テレンス・ブランチャード
- アントニオ・ピント
- ラミン・ジャワディ
- マウリッツィオ・カポーネ
- ハイ・リン
- 出演
- ビラ・アダマ
- ウロス・ミロヴァノヴィッチ
- ロージー・ペレス
- フランシスコ・アナウェイク・デ・フレルタス
- ベラ・フェルナンデス
- デヴィッド・シューリス
- ダニエリ・ヴィコリト
- ザオ・ツークン
- チー・ルーイー
“世界中の子供たちの窮状を救うために”というテーマのもと、国連世界食糧計画のサポートで7組の監督が参加したオムニバス・ドラマ。
アフリカの少年兵を描いた「タンザ」、家族で窃盗団を結成する家に生まれた少年を描いた「ブルー・ジプシー」、HIVの少女を描いた「アメリカのイエスの子ら」、廃品回収で生きるブラジルの兄妹を描いた「ビルーとジョアン」、戦争写真家が過去にトリップする「ジョナサン」、盗みを繰り返すナポリの少年を描いた「チロ」、裕福で孤独な少女と貧しいホームレスの少女を描いた「桑桑(ソンソン)と小猫(シャオマオ)」の7本。
こういう社会的なオムニバス映画というのは名だたる巨匠が参加してということが多く、この作品もエミール・クストリッツァ、リドリー・スコット、スパイク・リーなど有名な監督が参加しているが、あまり派手さはない。さらには各作品も短すぎず、十分にテーマを描ける長さを持っているので、テーマや名前に惑わされることなくそれぞれの作品を見ることが出来る。
最初の「タンザ」は少年兵が主人公でいかにもといえばいかにもな作品。しかし、少年兵というのは世界では非常に大きな問題であり、無視することも眼をそむけることもできないもの。その少年兵をドラマティックにではなく、さらりと日常的に描いた点は評価できると思うが、1本の映画としては少々退屈だ。しかしこの作品が持つメッセージは相当に深い。
2本目の「ブルー・ジプシー」はいかにもクストリッツァらしいジプシー音楽を使ったコメディタッチの作品。どうしてもシリアスになりがちなテーマのオムニバスの中にこのような軽妙な作品が入っているというのはいいもんだ。家族が音楽を演奏しながら盗みをするその手口に感心させられ、せっかくの改心しようという気持ちが簡単に踏みじみられる少年の無念さに歯噛みする。短いけれどうまくまとまったいい作品だ。
3本目のスパイク・リーの「アメリカのイエスの子ら」。これは凄い。やはりスパイク・リーは凄い。物語はジャンキーでHIVの両親とその娘の物語。自身がHIVと知らなかったブランカは薬をビタミンと親に教えられ、飲むのを嫌がる。しかしブランカは友だちに“エイズ・ベイビー”といじめられ、自分がHIVであり、親が麻薬中毒である現実に直面する。子供が現実に直面せざるを得ないときの切なさ、彼らの生活、そしていじめの切実さ、作品に強弱があり、常に緊張感が漂う。途中にはHIVに過剰に反応する親も登場し、HIVにまつわるさまざまな問題を意識化する。スパイク・リーの凄さはその問題意識と、それをうまくエンターテインメントの中に閉じ込める手法である。この短い作品においてもそれを見事にやってのけ、このオムニバスの中でも群を抜く作品を作り上げた。
4本目の「ビルーとジョアン」もいい。ブラジルのストリート・チルドレンの兄妹の日常の一こまを描いた作品だが、この兄妹の表情に暗さはなく、悲惨なように見える日常もふたり一緒なら楽しそうだ。それをこの作品は非常に小気味いいテンポとなかなか凝ったカッティングで描く。特に斬新な映像というわけではないのだけれど、短いカットをちょこちょこ織り込んで映像のリズムに変化をつけ、トリップ間を味あわせるのがいい。とはいえイメージビデオになることはなく、子どもたちの明るい表情と裏腹な周囲の大人の冷たい視線を織り込み、彼らの厳しい現実を描くところは問題意識の高さをうかがわせる。監督のカティア・ルンドは『シティ・オブ・ゴッド』の共同監督にも名を連ねる楽しみな監督だ。
5本目の「ジョナサン」はリドリー・スコットが息子のジョーダン・スコットと共同監督したものだが、戦争写真家がそこで目撃した風景と自分の子ども時代とを重ね合わせて一種の幻想を見るという物語。アフリカなどで起きていることを遠い世界のことではなく、自分たちとつながりのあることなのだと認識するのにはいいと思うが、あまり面白くはない。
6本目の「チロ」はそこそこというところか。少年と犯罪というのは取り上げやすい題材で、そこに感情を盛り込むことなくドライに描いている。犯罪を犯す少年がいるということ、それはもちろん由々しき自体だが、果たして私たちは本当にそのことに向き合っているのか、そんな風なことを考える。
最後はジョン・ウーの「桑桑(ソンソン)と小猫(シャオマオ)」。まあ、さもありなんという話で特筆すべき点はない。映像こそジョン・ウーらしい重厚なものだが、それ以外はほぼステレオタイプにはまったという感じだろうか。妙に整った顔立ちの子どもがちょっと怖い。
全体ですべての作品がつながってひとつのことを表現しているというよりは、本当にさまざまな作品が集まったものという感じであまり1本の作品という感じはしない。しかし、1本1本のクオリティは高い。「アメリカのイエスの子ら」と「ビルーとジョアン」だけのためでも見る価値はある。