転々
2008/5/20
2007年,日本,101分
- 監督
- 三木聡
- 原作
- 藤田宜永
- 脚本
- 三木聡
- 撮影
- 谷川創平
- 音楽
- 坂口修
- 出演
- オダギリジョー
- 三浦友和
- 小泉今日子
- 吉高由里子
- 岩松了
- ふせえり
- 松重豊
借金取りに84万円の返済を迫られた大学生の竹村文哉は、その借金取りに一緒に霞ヶ関まで歩いていったら100万円やるという奇妙な提案を持ちかけられる。選択の余地のない文哉はその提案を受け入れ、その借金取り福原のいうままに東京の街を歩いて。福原はその理由を妻を殺したから自首しに行くというのだが…
三木聡が「時効警察」でコンビを組んだオダギリジョーを主演に迎えたコメディ。小ネタ満載だが話としてもまとまっているので、三木聡ファンでなくとも楽しめる。
三木聡といえばとにかく小ネタ。小ネタの量とわけのわからなさで三木聡ワールドの濃さは変わってくるがこの作品は比較的ワールド度が薄いほう。同年に撮られた『図鑑に載ってない虫』がワールド度が非常に濃かったのとバランスをとったのか。これなら「時効警察」から三木聡に入っても拒否反応は示さないだろう。三日月しずかもカメオ出演しているし。
この作品がうまいのは、オダギリジョーと三浦友和のシュプロットのほうは極力小ネタを抑えて、別のプロットに岩松了とふせえりと松重豊という濃い三人を配して、とにかく小ネタだけをやらせているところだ。小ネタについていくのが苦しければ(なんといってもこの3人の登場シーンはいきなり「つむじが臭いって言われた」という台詞から始まるエピソード)、それは無視すればいいというわけだ。もちろん、主プロットのほうにも小ネタはあるけれど、それは比較的まともでほのぼの出来るくらいのものだ。
三木聡の映画を見ていつも思うのは、この小ネタのバランスの難しさだ。多すぎると一般の観客には受け入れられないし、少ないと物足りない。この作品はその間をうまく縫って作っていると思うのだが、それは同時に中途半端だということでもある。100分という時間は結構長いとは思うが、濃い3人(と岸部一徳)のエピソードをもう少しボリュームアップしてもよかったようにも思える。この濃い3人のエピソードは福原が殺してしまった妻が発見されるかどうかというこの映画の唯一の緊張感にも関わってくる部分なので、もう少し増やしてもしつこいということにはならないと思う。
と、小ネタばかりの話になってしまったが、オダギリジョーと三浦友和と小泉今日子が展開するエピソードのほうもまっとうに面白い。原作とは大きく変わっているらしいが、幼い頃両親に捨てられたというオダギリジョー演じる文哉がいやおうなく擬似家族の中に巻き込まれるというのは面白い展開で、しかもそこには表面に見えているのとはまた別の底意がありそうに見えるのもいい。その底意は最後まで明らかにならないのだが、こちらを膨らませてもまた面白い話になったかもしれない。
結局、この映画はよく言えばふたつの要素を贅沢に使った作品、悪く言えば相容れないふたつのプロットを並存させた中途半端な作品となる。三木聡という映画作家のキャラクター的を考えると、彼の作品は常にこのジレンマの間に立たされるのだと思うが、いつか信じられないような傑作が生まれるのではないかという予感もする。私はこういう小ネタは嫌いじゃないので、その傑作が出来るまで多分見続けます。