自虐の詩
2008/5/27
2007年,日本,115分
- 監督
- 堤幸彦
- 原作
- 業田良家
- 脚本
- 関えり香
- 里中静流
- 撮影
- 唐沢悟
- 音楽
- 澤野弘之
- 出演
- 中谷美紀
- 阿部寛
- 遠藤憲一
- カルーセル麻紀
- 西田敏行
大阪の下町に暮らす幸江とイサオ、幸江は食堂で働くが、元ヤクザのイサオは毎日ぶらぶらし、気に入らないことがあるとちゃぶ台をひっくり返す。そんな幸江をアパートの大家は心配するが、子供のころ母に捨てられた幸江はこんな生活でも幸せだった。そんな生活が続いたある日、イサオが「働きに出る」と言い出すが…
業田良家の同名4コマ漫画を堤幸彦監督で映画化。パンチパーマの阿部寛が妙にいい。
映画の主舞台となるのは大阪、元ヤクザもんでどうしようもない男とそれでも離れられない女。元ヤクザのイサオは口数が少なく、気に入らないことがあるとすぐにちゃぶ台をひっくり返す。幸江はそんなイサオのために毎日働きに出て、晩ごはんを作り、アイロンをかける。アパートの大家はちゃぶ台をひっくり返した回数を数えながら幸恵のことを親身になって心配し、幸江が働く中華料理屋のマスターは幸江に思いを寄せる。
ここでは阿部寛が非常にいい存在感を示す。喧嘩はめっぽう強く、荒くれもののように見えるが実は心優しく、幸江を愛している。幸江もそれをわかっているからつらい生活にも耐えている。そこにクスリと笑えるネタを織り込んでなかなかいい人情喜劇に仕上げている。喜劇という部分でも強面な阿部寛の行動のおかしさというのも利いているし、それとは対照的に見事に大阪のおばちゃんを演じているカルーセル麻紀も利いている。もちろん、この阿部寛とカルーセル麻紀をつなぐ中谷美紀の存在も大きいのだが、主役にもかかわらず一歩下がった感じもある。
しかしこのバランスがいいのだと思う。見所のちゃぶ台返しもそれ自体は別に何ということはないのだが、一回一回に対して幸江が取るリアクションがなかなか面白いし、幸江と食堂のマスターのやり取りも面白い。幸江を中心に回る小ねたの数々がこの映画の最大の面白みだろう。
この大阪の場面がある程度展開したあと、幸江の故郷である東北の回想シーンとそこから上京した東京の回想シーンがある。東北時代の幸江はものすごく貧乏で同じく貧乏な熊本さんという友達がいる。この熊本さんとの関係もなかなかよく、感動を誘う物語にもなっている。
しかし、この東北時代と大阪時代とをつなぐ東京のエピソードがいまいち。幸江は一貫して貧乏で、いわば社会の底辺を生きている。東京はその中でもどん底の生活なわけだが、その悲惨さがいまひとつ描けていないと思うのだ。確かにここを強調すると喜劇性が失われてしまうことにもなりかねないが、幸江とイサオの“幸せ”を描くにはこの時代の悲惨さを描くことがどうしても必要だったのではないかと思う。
原作は“日本一泣ける4コマ漫画”と評されもしたという。原作は読んでいないのだが、おそらくこの東京の部分が効いていたのではないかと思う。映画を観て原作を読みたくなるということがたまにあるが、これもそんな作品のひとつかもしれない。
役者もいいし、演出も悪くない。この世界ははまる人ははまるのだと思う。私はちょっと語りきれていないという気がしたけれど、これくらいわかりやすいほうが観客を引き込みやすいことも確かだ。おそらく評価が分かれる作品で、私はいまひとつはまれなかったわけだけれど、はまるという気持ちもわからないわけではない。監督でも出演者でも原作でも、何か引っかかるものがある人は試してみても損はないと思う。