絶対の愛
2008/6/3
Shi Gan
2006年,韓国=日本,98分
- 監督
- キム・ギドク
- 脚本
- キム・ギドク
- 撮影
- ソン・ジョンム
- 音楽
- ノ・ヒュンウ
- 出演
- ソン・ヒョナ
- ハ・ジョンウ
- パク・チヨン
- 杉野希妃
セヒは恋人のジウが他の女を見たと言っては怒り、私に飽きたのではないかと詰め寄る。そんなセヒが突然ジウの前から姿を消す。セヒは違う顔になろうと整形手術を受けたのだった…
キム・ギドクが韓国で広く浸透しているといわれる美容整形を題材に撮ったラブ・ストーリー。ラブ・ストーリーだけれどキム・ギドクだからやはり恐ろしい。
美容整形が韓国で一般的だというのは有名な話だ。女の子は高校を卒業するとみな二重になるなんてことがまことしやかに語られる。この作品はそのように美容整形が日常的になっていることから生まれる空恐ろしさを描いたものだ。愛する彼女が突然いなくなる。男は彼女のことが忘れられない。女のほうは顔を変え、傷が癒えた半年後に正体を明かさずに男のもとに戻ってくる。男はそれに気づかないが、昔の彼女に未練を残しつつその女を愛し始める。
これは空恐ろしい物語だ。しかも、美容整形が日常化した社会では十分起こりうることだ。キム・ギドクは日常のすぐそばにある恐怖を常に描いてきた。この作品はこれまでの作品よりも穏やかなようではあるが、日常のすぐそばにある恐怖を描いているという点では変わらない。
ただ、スェヒという女性が整形したセヒであるということが観客にはわかってしまっているので、ここの展開には今ひとつスリルがない。セヒの立場に立ってジウの反応を見るということは出来るが、はっきり言ってとんでもなくいやな女としか言えないセヒの視点から物語を見るのは気持ちのいいものではなく、中盤は今ひとつ入り込めず、間延びした感じになってしまう。
しかし、終盤にそれは一変する。この作品の面白さのほとんどは終盤にある。セヒとスェヒが同一人物であることを知ったジウがとる行動、そこから展開する物語、その緊迫感はさすがキム・ギドクと思わせるものだ。最後の最後もなるほどと思わせつつ、更に恐ろしさを募らせるむすび方でいい。
この最後の20分ほどを見るためにこの作品を見る価値はあると思うが、やはりそのための複線として1時間以上を見せられるのはちときつい。その部分が平々凡々とした映画であることで終盤の緊迫感が強調されるのだとは思うが、映像の見せ方なんかを工夫すればもっと面白く出来たのではないか。全体の印象としてはアイデアはいいけれど、あまり勢力を注いで作っていないという感じだ。