ミッドナイト・クロス
2008/6/28
Blow Out
1981年,アメリカ,113分
- 監督
- ブライアン・デ・パルマ
- 脚本
- ブライアン・デ・パルマ
- 撮影
- ヴィルモス・ジグモンド
- 音楽
- ピノ・ドナッジオ
- 出演
- ジョン・トラヴォルタ
- ナンシー・アレン
- ジョン・リスゴー
- デニス・フランツ
B級映画の音響効果マンのジャックは風の音を録るために夜出かけた、そこで偶然に銃声を聞き、車が川へ転落するのを目撃、車内にいた女性を助ける。実はその車に乗っていたのは大統領候補で、彼の参謀という面会するが、その男は女が乗っていたことや銃声を聞いていたことは口外しないようにと言う…
ブライアン・で・パルマ監督、ジョン・トラヴォルタ主演のクライム・サスペンス。ちなみにヒロインを演じたナンシー・アレンはブライアン・デ・パルマの当時の奥さん。
映画の始まりはひどい音と安っぽい映像で、殺人鬼が登場し女子寮へと入っていく。殺人鬼の主観のその映像は女の子たちの近くを通っていくのに、誰もそれに気づかない。そしてついにシャワールームで殺人鬼はナイフを振り上げ、女の子が叫び声を上げるが、その演技がひどい。
とここで、映像はそれを見ているジョン・トラヴォルタへと移り、映画が始まる。このあたりの構成はさすがにうまい。
ジョン・トラヴォルタ演じるジャックは音響効果マンで、ひどい風の音と、ひどい叫び声を差し替えるよう頼まれるというわけだ。そしてその風の音を収録するために人里離れたところに夜出かけていくと、偶然に事故に出会う。
この謎の事故をめぐる陰謀と、それを解き明かそうとするジャックの試み、これが絡み合う前半は非常に面白い。大統領候補の乗った車が撃たれたことはわかっているのだが、誰が、何のために撃ったのかはわからず、ジャックがそれを解明してゆこうというのだ。ジャックは一応、警察官だったという設定だけれど、決して謎を解明する者としては優秀ではなく、同じ被害者の立場で協力することになるサリーも、実はその事故を撮影していたという男と知り合いとわかり、信用できないかもしれないという可能性が出てくる。
この展開の面白さで前半はぐいぐい引き込まれていくのだが、中盤ジョン・リスゴー演じる犯人の存在が明らかになってきたあたりから展開に無理が出てきてちょっと興ざめという感じになる。まあ悪くはないんだけれど前半のはらはらする展開と比べると展開のしかたが強引で、犯人側の策略も明らか過ぎるし、これからどうなっていくのかというのも読みやすくなってしまう。
これで、せっかく入り込んでいた世界からすっと引き戻されてしまうようで興ざめしてしまう。ラストはまたいわゆるハリウッド映画らしくないひねりが効いていていいのだけれど、この後半部分の減速で映画全体の印象は「まあおもしろい」程度になってしまっていると思う。
もちろん、この作品が作られたのは1981年で、今のように映画がすさまじいスピードで進む時代ではなかった。それを考えると、前半部分は謎かけで、後半部分はジャックと犯人の心理をじっくり描くパートと考えることも出来るが、そうだとするとジャックの側の心理が描ききれていない。
観客には犯人を教えた上で、その犯人をどう追い詰めていくのかというのもサスペンスの手法の一つであり(私は勝手にコロンボ方式と呼んでいるが)、個人的には後半部分はその方式でジャックが犯人を追い詰めていくというやり方をとったほうがよかったのではないかと思ったりする。ジャックが犯人を追い詰めて、追い詰めて、しかし最後は… という展開。
そのほうがラストも生きたのではないかと考えるのは、世にあふれるサスペンスを見すぎ、より刺激の強いものを求めるようになってしまった現代の観客だからなのだろうか。
あるいは、この後半部分はもしかしたラブ・ストーリーなのかもしれない。表面的にはそうは見えないが、もしそうならば最後までつじつまもあう。恋愛映画が撮れない不器用なブライアン・デ・パルマなだけにこんな風になってしまったけれど、ジャックがサリーへの想いを募らせている過程なのだと解釈すれば、ラストも納得できるし、同時にその印象も強くなる。
本当にそういう意図の脚本で、恋愛の心理もうまく撮れる監督が撮っていたら(そういう監督はサスペンス部分をデ・パルマほどうまく撮れないかもしれないが)、とんでもない傑作になっていたのかもしれない。