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ベストセラー

風船

★★★★-

2008/7/12
1956年,日本,110分

監督
川島雄三
原作
大仏次郎
脚本
川島雄三
今村昌平
撮影
高村倉太郎
音楽
黛敏郎
出演
森雅之
三橋達也
芦川いづみ
北原三枝
新珠三千代
左幸子
preview
 カメラ会社の社長の息子圭吉は未亡人の久美子を愛人とし贅沢な暮らしをしていた。そこに目をつけた歌手のミッキーが圭吉にちょっかいをかける。圭吉の妹珠子は小児麻痺の影響で少しトロいが、久美子と仲良くなり…
  川島雄三が大仏次郎の原作を映画化。女優陣の競演が見所の愛憎劇。今村昌平が脚本と助監督で参加している。
review

 単純に言ってしまえば、三橋達也演じる金持ちのボンボン圭吉が未亡人から歌い手に乗り換えるというのが物語の骨子である。もともとの愛人の未亡人・久美子(新珠三千代)は圭吉にぞっこんで、乗り換える方の歌い手ミッキー(北原三枝)は計算ずくである。そこに圭吉の父親と妹が絡んでくる。
  序盤は圭吉の父春樹(森雅之、名前はなんと村上春樹!もちろんただの偶然ですが…)が京都に行くエピソードが挿入されたり、妹の珠子(芦川いづみ)が何故か久美子に会いに行ったりして散漫な印象があるが、中盤は圭吉を中心としたどろどろとした人間関係に収斂してぐっと物語が締まる。そして終盤は珠子が物語の中心に躍り出て、これが(ドストエフスキーの)『白痴』的な物語のバリエーションであったことが明らかになる。

 本当に散漫な話なので、解説してもよくわからないと思うのだが、細かく分解していくとこのようになる。
・画家を目指したが経営者に転進し成功、昔の下宿を訪ねたことらか隠居したいと思うようになる父親。
・小児麻痺のせいで少しトロく、母親と兄から子ども扱いされている珠子、しかし別の世界に飛び込みたいとも思っている。
・甘やかされて育ち、男前で金持ちなので何でも自由に出来ると思っている圭吉、女に愛情を感じたことはなく、金ですべてを解決しようとし、自己中心的でもある。
・その圭吉を愛してしまった久美子。
・圭吉を甘やかす母親。
・その母親となんらかの関係があったらしいナイトクラブの経営者。
・その経営者のところで歌うミッキー、その経営者の口ぞえで圭吉を誘惑する。
・珠子は久美子と会ってその純粋さに気づき、慕うようになる。
・春樹は昔下宿していた家を訪ね、そこで貧乏ながらも明るく暮らしているるい子(左幸子)に会い、その素朴な生活に惹かれる。
・珠子も京都を訪れるい子と意気投合する。
  このような散漫な物語が一気にまとまるのは圭吉に捨てられそうになった久美子が自殺をほのめかし、実際に自殺未遂するところからである。ここで圭吉が本当に人でなしであることが明らかになり、これに対して珠子は人の本性を見抜く能力があることがわかる。そして母親はあくまでも圭吉を弁護し、父親はそんな圭吉を突き放す。しかし父親とて圭吉を見限ったわけではなく、甘やかしてきた自分を省み、圭吉がまっとうな人間になってくれるよう突き放すのだ。そして妻と圭吉を置いて珠子と京都に行こうと考える。
  しかし、ここで物語がすんなり進まないところがこの作品が優れている点だ。普通に考えれば珠子はすんなり京都に行きそうなものだが、珠子はこれを拒む。珠子は兄と母が自分を馬鹿にしていながらも自分を必要としていることを感じ取り、残る事に決める。彼女はそれを考えて決めているのではなく、感じて決めているのだ。
  そこが彼女が「白痴」的(ムイシュキン公爵的)なところである。「白痴」的人物とは頭は弱いかもしれないけれど純粋で、自分の利益は省みず、周囲の人々の本性を見抜き、求めていることに自然と応じる。その純粋さが人々の心を打つ。この作品が珠子にその姿を求めたのは、ラストシーンが子供に混じって盆踊りを踊る珠子の姿であることからも明らかだ。

 そしてその珠子を演じる芦川いづみが非常にいい。芦川いづみというと裕次郎を中心とする日活アクションのヒロインという印象が強いが、お飾りのようなヒロインではない役でこそ力を発揮するのかもしれない。この作品の珠子というキャラクターは市川崑監督の『青春怪談』の"シンデ"というキャラクターと重なる。かわいいけれどどこかとろく、しかしちょっと怖いような、そんな不思議なキャラクター。人形のような顔立ちがそんなイメージを起こさせるのだろうが、見た目のイメージだけでなく、その役柄をしっかり演じてもいるのだ。
  この作品では同じく裕次郎の相手役として名を馳せる(もちろん後に結婚もする)北原三枝とも共演。ともに裕次郎の相手役ながら対照的なキャラクターを演じるふたりを対比して見られるのも面白いが、やはりこの作品で光っているのは芦川いづみだ。実は芦川いづみは川島雄三監督に見出され、川島監督の『東京マダムと大阪夫人』でデビュー、川島監督の日活移籍後、松竹歌劇団を退団し日活に入社した。だから、川島監督としては芦川いづみに大きな期待をかけ、この役を彼女に任せたのだろう。そして彼女もそれに答えた。
  派手なところがなく、少し埋もれた感じもあるが、いろいろと面白いところが多い作品だ。

Database参照
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国別・年順: 日本50年代以前

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