天然コケッコー
2008/7/16
2007年,日本,121分
- 監督
- 山下敦弘
- 原作
- くらもちふさこ
- 脚本
- 渡辺あや
- 撮影
- 近藤龍人
- 音楽
- レイ・ハラカミ
- 出演
- 夏帆
- 岡田将生
- 夏川結衣
- 佐藤浩市
- 大内まり
- 斉藤暁
山間の小さな木村町、その小中学校の生徒はわずか6人、そこに東京からひとりの男の子が転向してくる。最上級生の中学2年生右田そよには初めての同級生で、そよはうきうきとした気分で転校生を迎えるが、都会の子らしい冷たい態度にそよはがっかりするのだが…
くらもちふさこのヒット漫画を山下敦弘監督で映画化。ほのぼのした青春ドラマがさわやかで気持ちいい。
なんだかすごく淡々としている。いまどきの十代の少年少女の物語なんていうと、いじめだ売春だときな臭いことがいろいろ出てきて、激しいドラマが展開されるものだが、この作品はそんな風潮とはまったく逆をいく。
それはもちろんこの作品の舞台が田舎だからだ。小中学校で6人しか生徒がいない学校は兄弟同然、おしっこを漏らした1年生のパンツを中学2年のそよが洗う。それはそよにとっては当たり前のことだが、東京からやってきた広海には理解できない。
そこに浮かび上がってくるのは、都会と田舎の違いであり、田舎のよさと悪さである。田舎には長年一緒に過ごしてきたために何も言わずとも通じ合える心安さがある。誰もが当たり前に自分のやるべきことをやる。しかし、同時に決め付けられてしまうという息苦しさもある。
このそよという少女は本当によく出来た子だ。長年この町でただひとりの最高学年だったからだろうが、他の子どもたちのことをよく理解している。しかしだからこそ、自分の足りないところにも気づいてしまうし、都会の目から見た自分の姿のおかしさというものにも気づいてしまう。
この“田舎”とどう暮らしていくか、それがそよの抱える問題に他ならないのだ。
この作品の焦点はしかし、そよと広海の思春期らしい恋愛に置かれる。田舎の暖かさに触れた都会の少年と、都会のセンスに触れた田舎の少女、その関係はまさに淡い初恋の香り、青春そのものである。牧歌的な田舎町で展開される初恋に物語り、それはもう微笑みながら見つめるしかない絶品の物語だ。
それが非常にうまく描かれているから、作品全体も暖かくほほえましいものと写る。少しずつ大人になりながら成長していく子どもたちを見るのは楽しいものだ。
しかし、だからこそこの作品はどこか物足りない。穏やかで暖かい田舎町の雰囲気の下に漂う不穏な空気をほのめかしながら、その部分を描こうとはしない。それはおそらく、まだ大人への第一歩を踏み出したばかりで、その不穏な部分にまでは踏み込んでいないそよの視点にあわせたものなのだろうけれど、その視点にとどまってしまってはただの夢物語になってしまう。そよがまもなく直面しなければならない現実はまだ目の前には現れないのだ。
そよの母はおそらく外からやってきた(この街で育っていない)。だからそよの父と広海の母の関係も知らないし、どこかでよそ者という感じを持ち続けていると思う。その部分をもう少し描いていったら、この小さな町の閉鎖性が明らかになり、桃源郷じみて描かれるこの町に存在する歪みが明らかになったのではないか。
まあこういう心温まる作品が悪いとは言わない。しかし、これではただそれだけで終わってしまう。思春期ってのはもっと複雑なものだし、田舎町ってのはもっと陰鬱なものだと思ってしまう。果てしなく晴れ渡る青空と同じように、そこに住む人たちの心も澄み切っているなんて、絵空事だし子供だましだ。
そんな風に思ってしまうのは、私が都会の毒気にすっかりさらされてしまっているからなのかとも思うが、やはり描ききれていないのだという気がしてならない。田舎だから、中学生だから、こんな風に単純だろうというのはどうも納得がいかない。表面上は素朴に見えても、その奥には複雑な心理が隠れている、それが人間というものなのではないか。
なんか白々しいさわやかさにもやもやした感じが残ってしまう。ただ、夏帆はよかった。