フローズン・タイム
2008/8/5
Cashback
2006年,イギリス,102分
- 監督
- ショーン・エリス
- 脚本
- ショーン・エリス
- 撮影
- アンガス・ハドソン
- 音楽
- ガイ・ファーレイ
- 出演
- ショーン・ビガースタッフ
- エミリア・フォックス
- ショーン・エヴァンス
- ミシェル・ライアン
- マーク・ピッカリング
美大の4年生ベンは些細なことで恋人と別れることとなり、それがきっかけで不眠症になってしまう。深夜の時間をもてあました彼はスーパーでバイトを始めることに。仕事をしながら時間が過ぎるのをただ待つだけだったが、ある日、ベンの周りで時間が完全に静止していた…
写真家のショーン・エリスが2004年に制作し、アカデミー賞にもノミネートだれた短編映画を長編化したファンタジー。いろいろな意味でさすがは写真家という印象だ。
時間をとめることができたら、というのは誰しもが考えることだ。この作品ももともとはそんな発想から生まれたのかもしれない。しかし、実際のところなぜ時間が止まるのかはっきりしない。「なぜ」というのはもちろんひとつにはその仕組みがあるわけだけれど、そこはまあそもそも荒唐無稽な話だから無視するとして、それよりも気になるのはベンは「なぜ」時間を止めたのかということだ。
本来ならば、恋人のことを忘れるため、無為な時間が早く過ぎるために時間を早く勧めたいはずだ。しかし、時間は不意に止まり、彼はスーパーの客の女性達を裸にしてデッサンを始める。なんだかよくわからない。彼は時間をとめて何をしたいのか。作品の中で彼が独りごちていることから推測すると、何にも煩わされない自分だけの時間を過ごせるということなのだろうが、「時間をとめる」という強烈な出来事を説明するには不十分な気がする。
物語としては、恋人と別れたベンがバイトを始め、そこで知り合ったシャロンと恋に落ちるという単純な話である。そこにバイト仲間たちの悪ふざけが絡んでギャグが織り込まれ、展開していく。時々くすりと笑い、後はごくごく普通のラブ・ストーリーというわけだ。
この物語でなぜ、時間が止まらなければいけないのかというのがよくわからなかった。時間が止まっているというのはもちろんベンの妄想あるいは幻想なわけで、実際の止まっているわけではないはずなのだが、フットサルの試合会場で不意に時間が止まったり、別のシーンでは時間をとめたまま2日間がたってしまったり(無精ひげが伸びていることで実際に2日間がたったことを示している)する。
こんな風にわざわざ本当に時間が止まっているのだということを説明しようとするのは何故かという疑問は、最後の最後に解ける。それはすべてラストシーンの美しさのためにあったのだ。そのシーンが何なのかは書かないが、時間が止まっているからこそ見られる世界、それは写真と同じものだ。
私たちの日常生活では常に時間は流れ、止まることはない。しかし写真はその一瞬を切り取る。その写真の上では時間は止まり、見えるはずのない風景が見えることがある。写真家であるショーン・エリスはその静止した風景に魅せられ、その風景を見せるためにわざわざこんな物語を綴ったのではないか。写真で止まった時間を見せるのは当たり前のことだが、映画でそれを魅せるのはなかなか斬新だ。
もちろんそれを実現しているのはCGであり、実際の写真ではないのだけれど、写真家ならではの画作りがそのシーンをロマンティックに実現しているのだ。
この一瞬を永遠に保存しておきたいという想い、その想いが強いからこそベンは画家を目指し、時間を止めることができるようになった。それはおそらくショーン・エリス自身にもあてはまることなのだろう。貴重なる一瞬への憧れ、それがこの映画が語ろうとしていることである。
一瞬に憧れ、時間をコントロールしたいと願う。考えてみると、それは非常にロマンティックなことだ。そのロマンに浸れれば、この作品は面白い。