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ベストセラー

いつか眠りにつく前に

★★★★-

2008/8/19
Evening
2007年,アメリカ=ドイツ,117分

監督
ラホス・コルタイ
原作
スーザン・マイノット
脚本
スーザン・マイノット
マイケル・カニンガム
撮影
ギュラ・パドス
音楽
ヤン・A・P・カチュマレク
出演
クレア・デインズ
トニ・コレット
ヴァネッサ・レッドグレーヴ
パトリック・ウィルソン
ヒュー・ダンシー
メリル・ストリープ
グレン・クローズ
preview
 ベッドで人生の最期を迎えようとしていたアンとそれを見守るふたりの娘。アンはうわごとで何度も“ハリス”という名を口にする。そのときアンは親友のライラの結婚式のことを思い出していた。その日、アンは仲のよいライラの弟バディに古くからの友人ハリスを紹介される。アンはひと目でハリスに魅かれるが…
  スーザン・マイノットのベストセラー小説を豪華キャストで映画化したヒューマン・ドラマ。特に女性にオススメの感動作。
review

 物語は、人生の最期を迎えようとしているアンの回想を中心に進む。アンは親友のライラの豪華な別荘での結婚式に呼ばれるが、ライラは実はその別荘の家政婦の息子だったハリスにずっと想いを寄せていた。ライラの弟バディはそのことに気づいており、ライラが結婚を思いとどまるように説得してくれと冗談めかしてアンに頼む。そのバディにハリスを紹介されたアンはハリスにひと目で魅かれ、ハリスのほうもアンに魅かれたように見える。しかし、ハリスはバディがアンに想いを寄せていると考えているようで… という複雑な恋愛模様がそこにある。
  結局、ライラは何事もなく結婚し、ハリスとアンがそこでは結ばれるわけだが、その後に起こった出来事をアンは生涯悔い、アンの人生はそこで少し変わってしまう。人生の最期を間近に感じるアンはハリスのことを思い出し、コニーとニナというふたりの娘を前に、自分の人生が果たして幸せなものだったのだろうかと思い悩むのだ。

 バディとニナ、この作品を解く鍵はこのふたりにある。この二人は驚くほど似ている。不安定だけれど純粋で真摯である。ふたりの姉、ライラとコニーが外を向いて、社会的に幸せと考えられる幸せをつかんだのと裏腹に、彼らは自分の内面と向き合い、結果的に社会に背を向けてしまう結果となる。しかし、同時に彼らは姉の幸せを自分自身の心を裏切った妥協と見てもいるのだ。
  この時間的に非常に長い物語は、アンが若いときには、社会と同様に背を向けてしまったバディ=ニナを受け入れ、包み込む物語である。ニナは変わり者の自分よりもまっとうな姉が愛されていると感じていた。病床のアンも夢うつつの中でニナをコニーと呼んでしまい、ニナはさらにその想いを強める。コニーとニナがまだ子供だった頃もアンはまだニナを完全に包めてはいなかったのだろう。ふたりの子供を平等に扱っていても、感受性が強く、内省的なニナはそのアンの気持ちを受け止められない。
  人生の最期にバディのことを思い出した、というよりとらえなおしたアンはニナが求めているものに気づく。ニナは最期まで母親を知ろうとし、母の求めているものを知ろうとする。それは愛を求めていることの裏返しであり、与えようとするものこそ与えられるという愛の真理を無意識に行っているということなのだ。これに対してコニーは眠っている母に言葉に出して「もう一度昔のお母さんに戻って」と言う。アンはこれには答えない。
  しかし、もちろんこれをもってバディ=ニナこそが愛すべき人間であり、ライラ=コニーは冷たい人間だということにはならない。むしろライラ=コニーは愛にあふれている。彼女たちは常に愛され、同時に愛してもいるのだ。ただそれが普通のことになってしまっているために、本人達もそれをあまり意識していない。それに対して、バディ=ニナは愛されているかどうか不安なゆえに、愛を与えることに対しても臆病になってしまっているのだ。
  アナは人生の最期にバディ=ニナに「愛されてるから大丈夫だよ」というメッセージを送る。それは彼女自身にとっても人生の後悔をひとつ埋め合わせることである。

 この作品は、そのような人々の心情を見事に描く。言葉に多くをよらず、映像でというよりは映像を組み合わせて作り上げた物語によって言葉以上に能弁に語りあげる。これぞまさに物語映画、原作は未読だが、これだけ見事な作品に仕上がれば、脚本家として参加した原作者のスーザン・マイノットもさぞ満足なことだろう。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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