エディット・ピアフ~愛の讃歌~
2008/8/29
La Mome
2007年,フランス=イギリス=チェコ,140分
- 監督
- オリヴィエ・ダアン
- 脚本
- オリヴィエ・ダアン
- イザベル・ソベルマン
- 撮影
- 永田鉄男
- 音楽
- クリストファー・ガニング
- 出演
- マリオン・コティヤール
- シルヴィー・テステュー
- パスカル・グレゴリー
- エマニュエル・セニエ
- ジャン=ポール・ルーヴ
- ジェラール・ドパルデュー
ステージで倒れたエディット・ピアフ、ここで死ぬわけには行かないと考えた彼女は、子供時代を思い出す。父親は兵隊に行き、祖母の経営する娼館に預けられた彼女は娼婦達にかわいがられるが、父が帰ってくると旅芸人の厳しい生活が始まる。その中で歌を披露した彼女はやがて路上で歌を歌って生活するようになる。そして、彼女を偶然目にしたパリのクラブのオーナーによって彼女の生活は一変する…
伝説のシャンソン歌手エディット・ピアフの生涯を描いた伝記ドラマ。
フランスでは大ヒットしたそうだけれど、それはフランス人のエディット・ピアフ好きを証明しただけで、この映画がそれだけ面白いということではないと思う。こういう現代の偉人の伝記映画というのはただその生涯を物語として描くだけでは映画としては厳しいものになる。その生涯がものすごく破天荒だったり、映画としての工夫があったりしないと、どんどん作られる同じような作品に埋もれてしまうことは必至だ。
この作品は、若くして亡くなったエディット・ピアフが晩年、ステージで倒れたところからはじめ、そこから子供時代にさかのぼる。そして子供時代からの時系列と、倒れたところからの時系列をほぼ交互に展開させていく。これが工夫といえば工夫なんだけれど、この手法によって浮き彫りにされるのは、昔のピアフと晩年のピアフとの断絶であり、その断絶はふたつの時間を混ざりにくいもの、水と油のように別々の物語として展開してしまう。そのため、時間がジャンプするとき観客は混乱し、ふたりのピアフの間に置いていかれてしまう。
昔のピアフも現在のピアフも気難しいけれど、決していやな奴ではない。人間的に弱く、混乱してはいるけれど、十分に入り込める人格である。だから、順を追ってじっくりと描けば観客はピアフの内面に入っていくことができたはずだ。しかし、この作品が取った手法によってそれは不可能になった。せっかくマルセルという恋人との恋を中心に持ってきて、印象的な終盤を作ったのに、その前段階でその恋に向かうピアフの心が今ひとつつかめない。
彼女がドラッグに溺れ、歌にしか自信を持つことができず、それが人生を狂わせて行ったという彼女の“人生”が見えてこないのだ。ただわがままで自分勝手なスターの生涯を描いただけならば、同じような作品が本当に星の数ほどある。それを越える何かがなければ苦しい。
ただ、歌のほうはピアフ自身が歌った音源を多数使ったというだけあって迫力があってよかった。近い時期にマリア・カラスの伝記映画『マリア・カラス最後の恋』が公開されたが、マリア・カラスがオペラ歌手であり、その歌に今ひとつなじみがもてなかったのと比べると、耳慣れた歌を多数歌ったエディット・ピアフの歌は伝わりやすい。
シャンソンなんて日常ではあまり聴く機会もないけれど、映画なんかで流れると情感があって、ロマンティックでいいと思った。エディット・ピアフという歌手の偉大さは伝わった。