ルイーズに訪れた恋は
2008/8/30
P.S.
2004年,アメリカ,100分
- 監督
- ディラン・キッド
- 原作
- ヘレン・シュルマン
- 脚本
- ディラン・キッド
- 撮影
- ホアキン・バカ=アセイ
- 音楽
- クレイグ・ウェドレン
- 出演
- ローラ・リニー
- トファー・グレイス
- ガブリエル・バーン
- マーシャ・ゲイ・ハーデン
- ポール・ラッド
コロンビア大学の入学選考部長ルイーズは、別れた夫と友人として付き合う。そんな彼女はある日、あけ忘れた入学願書の差出人の名前に目を奪われる。それは彼女が若いころの恋人と同じ名前だったのだ。面接と称してその学生F・スコットを呼んだルイーズは彼に運命的なものを感じ…
ローラ・リニー主演のラブ・ロマンス。39歳という微妙な年齢の主人公の心の動きを描いた佳作。
映画は静かに始まるが、交通事故で死んでしまった昔の恋人とまったく同じ名前を持つ若者との出会い、そしてすぐに運命的なものを感じ、物語は急激に動く。さらに、元夫がセックス依存症(正式には性依存症というが)だという衝撃の告白があり、それにも絡んでルイーズの弟サミーの名が何度も出てくるあたりで、ただならぬものを感じさせる。いったい、F・スコットは何者で、昔の恋人とどういった関係にあるのか。夫がセックス依存症だとわざわざ告白した理由は何なのか。などなど謎が生じてくるわけだ。
だから、これらの謎が興味を引く前半は作品として勢いがある。若い恋人との関係の新鮮さを味わいながら、元夫の告白の衝撃に耐え、さらに昔の恋人との思い出の痛みを感じ、その昔の恋人を取り合ったこともある親友も登場。その親友ミッシーは新しい恋人F・スコットとの関係にも入り込んできて、話は複雑になっていく。
しかし、いよいよというところでこの物語は急にしぼんでいく。思わせぶりに提示されたさまざまな謎は劇的な謎解きを迎えることなく、日常的な出来事としてしぼんでいく。F・スコットは昔の恋人スコットとは関係なく、元夫のセックス依存症がその告白以上の衝撃をルイーズに与えることはなく、弟のサミーも親友のミッシーも至極全うな言葉を吐く。
結局のところ後半は、40歳というひとつの節目を前にして、あせりや不安や戸惑いを感じていた主人公が、新たな一歩を踏み出す物語だということだ。そのタイミングでF・スコットという人物が偶然現れ、ルイーズの人生をかき乱し、それによって彼女は自分を見つめなおさざるを得なくなったというわけだ。
まあそれはそれで納得で、ドラマとしては完成されているんだけれど、前半の面白そうな空気が急速にしぼんでいってしまったことで、いまひとつ腑に落ちない映画となってしまったという印象がある。
しかし、このローラ・リニーという女優は演技もうまいし美人なのにもかかわらず、存在を主張しないところが非常にいい。陳腐な言い方をしてしまえば、“自然な”演技をしているということなのだが、自然に見せる演技ができるというのは本当に演技がうまいと言うことなのだろう。大作で大仰な演技を見せて“演技派”といわれることは簡単だけれど、このような小さな作品でわざとらしくなく演技力を感じさせるというのは難しい。
このローラ・リニーの演技の素晴らしさを一番感じたのは、カメラに映っていない人物やものの存在を感じさせるという点だ。撮影のとき実際にはいないかもしれないその人物がそこにいることを観客に感じさせる演技、まあそこにはもちろん撮影や編集の技術もかかわってくるのだろうけれど、素材としての役者の演技がそれをやっていなければ、それを実現するのはほぼ不可能だ。それがローラ・リニーの素晴らしさだろう。
アカデミー賞にも3度ノミネート、そろそろ受賞するんじゃないかな?