アメリカン・ギャングスター
2008/9/7
American Gangster
2007年,アメリカ,157分
- 監督
- リドリー・スコット
- 脚本
- スティーヴン・ザイリアン
- 撮影
- ハリス・サヴィデス
- 音楽
- マルク・ストライテンフェルト
- 出演
- デンゼル・ワシントン
- ラッセル・クロウ
- キウェテル・イジョフォー
- ジョシュ・ブローリン
- ライマリ・ナダル
1968年、ハーレムの黒人ギャングのボス・バンピーが亡くなり、その運転手だったフランクがあとを継ぐ。フランクはベトナム戦争中の東南アジアにいるいとこと取引し、直接純度100%のヘロインを仕入れることに成功、“ブルーマジック”と名づけられたヘロインは彼に大きな成功をもたらす。ニュージャージーの警察官リッチーは正直すぎることで仲間から疎んじられるが、新たに設立された麻薬捜査班のチーフに抜擢される。
リドリー・スコットが実際の事件を元に作り上げたクライム・サスペンス。物静かな作品だが、主演ふたりの迫力はさすが。
60年代という時代に、黒人のギャングが麻薬取引によってのし上がっていく。そのきっかけは麻薬の生産地との直接取引で、それは当時社会に広がってきていた大型の小売店の商法をヒントにしたということになっている。
このことこそがこの作品において一番重要なことなのではないかと私は思った。マフィアやギャングなんていうと暴力と陰謀で抗争を繰り返しているだけのようだが、やはり金を儲けたものが勝つわけで、金を儲けるには社会の流れを読み、対抗勢力に先んじることが重要なわけだ。フランクは師匠であるボスのバンピーが亡くなったそのディスカウントストアでそのことに気づいたのだ。
つまり彼は社会の変化に気づき、その変化に乗っていくことで成功者となったのだ。
そしてもう一人、別の側面で社会の変化に気づいたのがリッチーである。彼は汚職が当然の警察組織の中にあってバカ正直に金を警察署に届けて仲間に疎んじられるようになる。それは、彼の正直な性格ゆえと描かれているが、彼は警察官でありながら司法試験を目指そうとしているあたりからも、警察官であるだけでは安泰ではなくなりつつある社会の流れを読み取っていたのだといえるのではないか。警察官が犯罪者から賄賂を受け取り贅沢な生活を送れる時代は終わりつつある、彼はそう感じ取っていたからこそ、信念に従って行動し、そして最終的に成功した。
リドリー・スコットがギャング映画でありながら、彼らしい派手なアクションが影を潜めたのは、彼のこの事件に社会の変化とその変化にうまくのった男たちの姿を見たからだろう。単に、一人のギャングがのし上がり、それを一人の刑事が追い詰めるというありきたりな物語では、実話であるこの話を映画として取り上げる意味は何もない。そのようなありきたりのギャング映画ならオリジナルの脚本で撮ったほうが何倍も面白くなるはずなのだから。
そして結果的には、70年前後という時代とその社会、そしてフランクとリッチーというふたりの人物を描くことには成功したが、エンターテインメントとしての面白さはいまひとつという感じになってしまった感はある。157分という長い作品ならば、クライム・サスペンスらしいカタルシスを感じさせる場面があってもよかったと思うのだが、全体的に観察者の目に徹しすぎた感じだった。
リドリー・スコットは撮る素材は変わることはないが、作品が描いているものは変わってきている、そんな印象を与える作品だった。ギャング映画を見たい人よりも、ビジネスとかアメリカ社会についての映画を見たいと思っている人のほうがしっくり来る作品ではないか。