フリック・ストーリー
2008/9/16
Flic Story
1975年,フランス,108分
- 監督
- ジャック・ドレー
- 原作
- ロジェ・ボルニッシュ
- 脚本
- アルフォンス・ブーダール
- 撮影
- ジャン=ジャック・タルベ
- 音楽
- クロード・ボラン
- 出演
- アラン・ドロン
- ジャン=ルイ・トランティニャン
- クローディーヌ・オージェ
- マリオ・ダヴィッド
- レナート・サルヴァトーリ
フランス国家警察の刑事ボルニッシュは脱獄した凶悪犯エミールの逮捕を命ぜられる。エミールは脱獄してすぐに強盗を働き、白バイ警官を殺した。ボルニッシュは情報提供を条件に釈放したレストランの店主からの情報で、エミールを追い詰めるが…
アラン・ドロン主演の実話に基づくクライム・アクション。犯人役のジャン=ルイ・トランティニャンの存在感が圧倒的。
アラン・ドロン演じる刑事がジャン=ルイ・トランティニャン演じる凶悪犯を追い詰めるという物語。脱獄したエミールはその日から強盗を再会し、国家警察の“スーパー刑事”エミールはうまくいったら係長にしてやるという部長からの約束でそのエミールを追う。ボルニッシュはエミールに何度も迫るが、疑わしきものを次々と消していってしまうエミールはなかなか捕まらない。
ボルニッシュ刑事とその部下たちの人物造形もしっかりしているし、彼の上司にあたる部長、あれの恋人の存在もアクセントを加える役に立っている。ボルニッシュは何が何でもという熱血な刑事ではなく、どこか超越した雰囲気があり、それがいわゆる刑事ものとは少し違う空気を出していていい。「担当をはずす」という刑事ものによくある局面でも、あわてることなくその状況を受け入れて、しかし見返してやるという意地と自信を静かに燃やし続けているというのが非常に味があっていい。
そんなボルニッシュを演じたアラン・ドロンも魅力的だが、冷酷無比な犯人エミールを演じるジャン=ルイ・トランティニャンの醸し出す空気がこの作品が成功した最大のポイントだろう。エミールは名手ともいうべき犯罪者らしく無口で冷静で同時に冷酷である。射抜くような目は周囲の人間を圧倒し、恐怖と説得力で人々を支配してしまう。裏切り者は迷うことなく消し、目撃者も殺す。そんな冷酷な男の仲間でい続けることは冷静に考えればそんなことなのだろうが、恐怖によって支配され、彼の存在自体が持つ説得力に魅了されてみな付き従わざるを得ないのだろう。
ジャン=ルイ・トランティニャンはそんなエミールの人間像を言葉に頼ることもなく、それを補強するようなエピソードもあまりない中で観客に納得させる演技を見せた。物語が進むにつれてどんどん冷酷になってゆく彼の姿は画面を通してみるだけで、背筋も凍るようだと言っても大げさではないだろう。
このボルニッシュとエミールの対照によってこの作品は面白くなっている。派手なアクションがあるわけでもなく、謎解きの要素があるわけでもないどちらかといえば地味な作品だが、犯罪者と警察の関係をある種、人間同士の関係として描くドラマとしては優秀な作品だ。