ダージリン急行
2008/9/21
The Darjeeling Limited
2007年,アメリカ,91分
- 監督
- ウェス・アンダーソン
- 脚本
- ウェス・アンダーソン
- ロマン・コッポラ
- ジェイソン・シュワルツマン
- 撮影
- ロバート・イェーマン
- 音楽
- ランドール・ポスター
- 出演
- オーウェン・ウィルソン
- エイドリアン・ブロディ
- ジェイソン・シュワルツマン
- アマラ・カラン
- ウォレス・ウォロダースキー
- アンジェリカ・ヒューストン
長男のフランシスにインドまで呼び出されたピーターとジャックの弟たち、父の死後1年余り疎遠だったが、フランシスが瀕死の事故にあったのをきっかけによりを戻そうとし、スピリチュアルな旅を企画する。しかし、何事も仕切ろうとするフランシスにふたりは反発し、ギクシャクしたまま旅が始まる。
『ザ・ロイヤルテネンバウムズ』のウェス・アンダーソンが監督した相変わらずオフ・ビートなコメディ映画。ゆるいけれどなかなかわらえるし、いい作品だ。
ウェス・アンダーソンの作品はリズムが独特で、なかなか乗りにくい。しかも彼はその独特のリズムに観客を乗せようとするのではなく、むしろその違和感を維持したまま作品を進めていこうとする。いうなれば観客の意表をつき、観客の予想とは異なるものを提示することによってそこに違和感を生じさせるのだ。その違和感がときに観客に考えさせ、大部分の場合は笑いにつながる。
この作品はビル・マーレイから始まる。急いで列車に乗ろうとしてタクシーを飛ばし、発車してしまった列車を追いかけて走るビル・マーレイをカメラは追う。しかし彼は主役ではなく、彼を追い抜いて列車に飛び乗ったエイドリアン・ブロディこそが主役のひとりなのだ。観客の多くはビル・マーレイが主役ではないと知っているわけだから、そもそもいきなりビル・マーレイが主役然として登場することに意表をつかれ、そして彼が唐突に物語から姿を消すことにも意表をつかれる。
旅の進み方もリズミカルではない。最初こそ普通に列車は進み、途中の停車駅で寺に行ったりするのだけれど、それも一回きりで、あとは変な儀式をしようとしてみたり、列車が迷子になってしまったり。列車の中でも普通のドラマなら起きそうなことは起きず、兄弟の破天荒な行動はなかなか予想がつかない。毒蛇が逃げるなんてのはいかにもな展開だけれど、「別れた彼女の留守電をチェックする」なんて行動はかなりきている。
笑いという面でも不意を突く感じでおかしな行動をして笑いをさそうということが多い。ギャグによって笑える人と笑えない人がいるとは思うが、今回はいつもと比べるとわかりやすい笑いが多いと思うし、全体的になじみやすい雰囲気がある。
そんなおかしさの中で展開されるドラマのほうは、兄弟の関係を描くことに力を注いでいる。ギクシャクしたというよりは、お互いを理解しているからこそ、無駄な干渉はあきらめるという「なーなー」の関係がこの兄弟にはある。長男のフランシスだけは不意に目覚めてしまって、ふたりの弟に新たな関係を迫るのだけれど、それだって彼自身が本当にスピリチュアルなものとかを信じているわけではないので、ほとんどの場合は彼の地の部分が出てしまって兄弟たちにあきれられる。
しかし、無茶なことばかりして列車から追い出されて展開が変わる。彼らは変人だけれど、善人だし、兄弟は互いに親友になることはできないけれど、受け入れてはいる。そのあり方が3人だけで行動することになって明らかになり、彼らも(主に)自分のことを考えながらも、兄弟でいることや兄弟との関係について少し考えを変える。
それは決してドラスティックな変化ではないのだけれど、彼らの生活を少し変えるだけの影響は持つ経験だった。そんな小さな変化をうまく描いた作品だ。この映画ではインドだったけれど、それはあくまで日常を離れるという舞台装置であって、別にインドでなくてもよかったのだろう。それゆえにインドを描こうという姿勢があまり見られなかったのは残念だが、非日常の場所での経験で日常がちょっと変わるというのは誰しもが経験することでもあり、興味深かった。