ぼくたちと駐在さんの700日戦争
2008/10/2
2008年,日本,110分
- 監督
- 塚本連平
- 原作
- ママチャリ
- 脚本
- 福田雄一
- 撮影
- 瀬川龍
- 音楽
- 志田博英
- 出演
- 市原隼人
- 佐々木蔵之介
- 麻生久美子
- 石田卓也
- 森崎博之
- 坂井真紀
- 石野真子
1979年、栃木の田舎町で高校生グループが自転車で“ネズミ捕り”に挑戦した。この悪戯で“駐在さん”につかまってしまったことで“ママチャリ”率いる高校生グループと駐在さんとの仁義なき戦いがはじまったのだ…
人気ブログ小説を、市原隼人主演で映画化。映画としての発想はとても面白いが、つくりがちゃちなのが残念。
物語は非常によく作りこまれている。もとがブログだということで私自身もちょっとバカにするところがあったのだが、決してそんなことはなく、娯楽小説として“直木賞”を狙ってもいいくらいの物語性がある。
発端は、下り坂が終わったところに仕掛けられた“ネズミ捕り”に引っかかったという本当によくある話、その姑息さに腹を立てた友人のために“イタズラ”に情熱を燃やす主人公(この時点ではまだママチャリとは呼ばれていないはず)が、自転車ならつかまるまいとイタズラを決行することから話は始まる。そしてそこから次々とイタズラを繰り出すことになり、駐在さんのほうもムキになるというわけではないがこの高校生たちと本気で付き合って、時にはイタズラをし返したりする。
ここで繰り出されるイタズラが本当にくだらなく、しかもそれを細かく解説するところも下らなくて、それが楽しい。どうでもいいといえばどうでもいいのだが、高校生の生活なんて生活の90%は下らないことで出来ている。どうせ下らないなら面白いほうがいいではないか。時には犯罪すれすれ、というかほとんどは法に引っかかることだが、あくまで軽微な罪だし被害者は駐在さん以外いない。そのバランス感覚が絶妙なのだと思う。
そして、ただただバカバカしいだけでなく、駐在さんと美人の奥さんの馴れ初めとか、ママチャリとイタズラ一味の一人西条の関係とか、過去にさかのぼって物語のプロローグとなるエピソードを組み込み、それが現在の人間関係に深みを与えるという効果も生んでいる。
特にママチャリは(原作者自信であるだけに)面白くて、思い切りがよく、人情味にあふれた人物に描かれている。まあできすぎという気はするが、市原隼人が演じるとそれもいやらしくなく、本当にそこにそんな人物がいるという気にさせてくれる。市原隼人は演技がうまいと感じさせるわけではないのだけれど、仕草や表情が自然でよかった。
残念なのは、映画のつくりのちゃちさだ。時折使われるCGがひどいのはもとより、セリフの時代考証もなっていないし、風景や小道具もレトロ感が出ていない。音楽だけは当時のものを使って懐かしさのようなものを演出してはいるのだけれど、それだけではカバー仕切れなかった。おそらくお金も時間もかけているのだろうけれど、出来上がりはTVの2時間ドラマ程度のもの、せっかくな素材がもったいない。
この作品の監督、脚本ともにTV出身、監督の塚本連平は『特命係長』や『ドラゴン桜』なんかの演出をしているが、映画では『着信アリ2』くらい。脚本の福田雄一は『THE3名様』で有名だが、映画ではあの『逆境ナイン』でもひどい脚本を書いて原作を台無しにしたといわれる。TVではヒットを生むことができるのかもしれないが、TVと映画は似ているようでやはり違う。映画では成功してもTVでは失敗してしまう人もいるわけだから映画のほうが偉いというつもりはないが、やはりそれぞれの作り方の違いを実につけてから新しいメディアを手がけて欲しいものだ。
結末がわかり安すぎるのもいやらしくていやだ。おそらく続編が作られるのだろうから、仰々しいカタルシスを押し付けるのではなく、すっと終わって次に行くくらいの粋が必要だったのではないか。