喜劇 一発勝負
2008/10/4
1967年,日本,94分
- 監督
- 山田洋次
- 脚本
- 山田洋次
- 撮影
- 高羽哲夫
- 音楽
- 山本直純
- 出演
- ハナ肇
- 倍賞千恵子
- 谷啓
- 犬塚弘
- 桜井センリ
- 加東大介
旅館の息子二宮孝吉は学生の身分で愛人を作り勘当される。1年後孝吉の娘を連れた女がやってきて、その娘マリ子は孝吉の妹として育てられることに。それから10年後、母親の一周忌の日に孝吉がふらりと帰ってくるが、その夜酒を飲みすぎた孝吉はあっけなく死んでしまうが…
山田洋次×ハナ肇が“馬鹿”シリーズに続いて手がけた“一発”シリーズの第一弾。妹役が倍賞千恵子ということもあり「寅さん」っぽさが強く感じられる。
できの悪い息子が家を追い出され、何年か後にふらりと帰ってくるなんてのは「寅さん」そのもので、しかもその妹がしっかりしていて、それを賠償知恵子が演じている。思わず「さくらっ」といってしまいそうだが、名前は信子、寅さんのさくらよりも若々しく、しっかりものだが美大生ということもあって野心がありそうなところも感じさせる。
まあ、もちろん一番大きな違いはハナ肇と渥美清の違いだ。ハナ肇は確かに親不孝ものではあるが、豪放磊落な感じで、何か成し遂げそうな貫禄を持っている。渥美清はふらふらとしているだけでどうも頼りない。喜劇を作るうえではハナ肇のような行動力があって豪快なほうがいいのだろうが、人情話を作るなら渥美清の穏和な感じのほうがいいのだろう。
これがどう寅さんになっていくのかという話はともかく、この作品はこの作品で十分に面白い。前回の“馬鹿”シリーズのコンセプトは受け継ぎつつ、主人公に一匹狼的な要素を加えることで物語の転換を図っているといえよう。“馬鹿”シリーズの主人公はどちらかというと憧れの人だったり家族のために八面六臂の活躍をするが、世間からは白い目で見られるというタイプの人間だった。しかし、この作品の主人公孝吉は親に歯向かい、世間からも白い眼で見られながらも、自分を信じて成功を目指す男である。しかしどこか間が抜けていてそれが喜劇になる。よく考えたらひどい奴なんだけれど、どこか憎めなくて、最後には成功するだろうことがわかっているだけについつい応援してしまう。
山田洋次はこういう“微妙な”キャラクターを創造するのがうまい。いかに観客の共感を得る主人公像を作るかということを山田洋次はハナ肇と模索していたのではないかと思う。そしてそれは主役を渥美清に換えて数本の作品を撮ったあと「寅さん」で結実する。やはりこの作品も「寅さん」への道への一歩だととらえられてしまうのは仕方のないところだ。
この作品でもうひとつ面白いのは加東大介の存在だ。主人公である孝吉に複雑な感情を抱える父親、彼の存在はこの作品が単純な喜劇となる邪魔をしている。もちろん、単純な喜劇になるのを防ぐためにこのようなキャラクターを物語りに入れたと考えることもできるが、果たしはむしろ山田洋次は単純な喜劇は撮れない監督だからこの父親を入れざるをいなかったと考える。
山田洋次は笑って終わりという物語は撮れない。クレイジーキャッツを使ってはいるが、東宝の植木等主演の“作戦”シリーズのような能天気で楽天的な作品を撮ることはない。それはおそらく彼がそういう完成を持ち合わせていないからで、それが彼の個性なのだ。
だから、この作品では教訓めいた話にするために加東大介が必要になった。その存在と、ずっと隠されていたマリ子が孝吉の娘だあるという事実がコメディらしからぬラストを生み、それは喜劇としては「ちょっと…」という感じもしなくはないが、私はそれが山田洋次の個性だし、このラストがあって初めて作品として完結するのだと思う。面白くはないが、いい終わり方だ。