ハムーンとダーリャ
2008/10/15
Hamoon-o-Darya
2008年,イラン,83分
- 監督
- エブラヒム・フルゼシュ
- 脚本
- エブラヒム・フルゼシュ
- 撮影
- トゥーラジ・アスラニ
- 音楽
- ファルディン・カラットバリ
- 出演
- メラン・ゴイルモハマドザデ
- マーブベ・シャーケリ
- ミラ・ハタミ
砂漠に近い町に暮らすハムーンとダーリャは両想い、しかしダーリャの兄トゥーファンはいとこのハムーンを嫌っており、母親も貧乏なハムーンと結婚させることを躊躇している。ハムーンは音楽では村一番だが、それでは食べていけないと気づき村を出て出稼ぎに行くことにする。
正統派イラン映画の秀作。監督はプロデューサとして永らくイラン映画界に関わってきたエブラヒム・フルゼシュ。監督としては4本目の長編作品。
互いに想いを寄せる若いふたりがいじめの標的になる。しかも少年のほうは親のいない貧しい境遇、想いを寄せる少女の兄やその少女に求婚する資格のある村のほかの少年たちはその少年ハムーンを執拗にいじめる。思春期の少年たちにはよくあることだが、子供の無邪気さと残酷さが大人になりつつある体と心に宿ることによって生まれるこのような構図はイラン映画らしいテーマといえるだろう。
そのハムーンは村を出て街に住む叔父さんのところで新たな居場所を見つけ、彼に想いを寄せる娘も現れる。そんな展開だから、イラン映画らしい日常のドラマで終わるかと思わせるが、ハムーンはダーリャへの想いを振り切れず、村に帰ることで今度は『ロード・オブ・ザ・リング』ばりの冒険譚が展開されることになる。
少年の冒険というと、アッバス・キアロスタミの傑作『友だちのうちはどこ』の日常の中の小さな冒険が思い出されるが、この作品では年齢が青年に近いだけにもっとスケールがアップしたスリリングな旅が描かれる。と言っても何日もというわけではないのだが、サソリや蛇や山賊がいて、水がなくなれば渇きと闘わねばならない砂漠を丸一日旅するのにはかなりのスリルがある。
そして、主人公のハムーンがその冒険の旅のみならず、何ものにもひるまず挑み続ける姿が感動的だ。いじめられて逃げるために村を出るのではなく、自分なりの道や仕事を求めて街へ出る。村のほかの若者たちが親から与えられる仕事に安住しているのとは対照的だ。そして冒険に出かけるときでも他の若者たちは固まってらくだに乗って出かけるが、ハムーンはそれに先立って一人歩いて出発する。そして彼の決意が最も固く、砂漠で生き残るすべも知っている。貧しさゆえのたくましさ。物語が結末を迎えることにはすっかりこのハムーンに肩入れしてしまう。他の若者たちは世間知らずのわがままな子供ばかりだ。かといって彼らに敵意を抱くというわけではない。それはハムーンもいじめられながらも彼らを敵視はしていないからだ。
監督のエブラヒム・フルゼシュは1969年に「カヌン(Kanun)」という映画スタジオをアッバス・キアロスタミと創設した盟友、1986年にはそのキアロスタミ脚本による『鍵』で監督デビューした。その彼だけにイラン映画が培ってきた伝統を着実に継ぎ、さらにそこにエンターテインメント性を加え、現代的なメッセージを込めている。ぜひ多くの人に見て欲しい秀作だ。