8月のランチ
2008/10/16
Pranzo di Ferragosto
2008年,イタリア,75分
- 監督
- ジャンニ・ディ・グレゴリオ
- 原案
- ジャンニ・ディ・グレゴリオ
- シモーネ・リカルディーニ
- 脚本
- ジャンニ・ディ・グレゴリオ
- 撮影
- ジャン・エンリーコ・ビアンキ
- 音楽
- ラッチェフ・カッラテッロ
- 出演
- ジャンニ・ディ・グレゴリオ
- ヴァレーリア・デ・フランチシス
- マリーナ・カッチョッティ
- マリア・カリ
- グラツィア・ツェザリーニ・スフォルツア
人々がバカンスに出かけ閑散とした8月のローマの街、老母と暮らしバカンスにも行けないジャンニはアパートの管理人に電気代の代わりに母親を2日だけ預かってくれと頼まれる。渋々引き受けるとつれてこられたのはふたりの老婆で…
ジャンニ・ディ・グレゴリオの長編デビュー作、ベネチア映画祭で新人監督賞を受賞した。
中年のおじさんが切り盛りする家に4人の老婆、考えただけで大変なシチュエーションだが、常日頃から母親を世話するジャンニは不平ひとつ言わず暖かく4人をもてなす。しかし、4人の老婆を抱えて過ごす24時間の間に彼のワイングラスが空くペースがどんどん速くなっていくのを見れば、彼がストレスを感じていることは容易にわかる。
しかし、この作品はわがままな老婆たちを描いた作品ではない。4人の老婆たちの四人四様の人間性、何十年の人生の経験は人それぞれの強固な価値観を形作り、それは“わがまま”とも見えるけれど、彼女たちはただわがままなわけではない。息子たちからすれば親たちの行動は身勝手に映るかもしれない。しかしそこには彼女たちが母として守るべき体裁があるのだ。この作品に登場する老婆たちは息子たちから解放されることで一時その体裁を忘れ、解放される。すると彼女たちは娘のようにはしゃぎだす。年齢とは関係なく人間が持ち合わせている無邪気さ、それが表面に出ることで彼女たちの行動はわがままでわずらわしいものからかわいらしいものへと変わっていくのだ。
ジャンニ(と息子たち)にとって母親は世話をするべき存在であるが、同時にあくまでも親でありその価値観によって子供を制御する存在でもある。逆に親たちにとっても子供は足枷であり、親らしく子供に迷惑をかけないために気を使っているのだ。ジャンニの家に預けられた老婆たちは始めこそ自分の息子に気を使い、ジャンニに対して体裁を保とうとするが、同年代の女性が4人も集まったこともあり、子供から離れたこともあり、徐々に解放されていく。
そのさまがとても楽しい。最初は体面を保つために着飾っていた4人が最後は自分自身が楽しむために自慢の衣装を着る。着るものによって端的に表されたその変化が心のそこからの変化であることは彼女たちの表情からもよくわかる。
特にテーマといったものもなく、ドラマが展開されるわけでもなく、笑いがたびたび起きるというわけでもないが、見ていると心温まる素敵な作品だ。監督・脚本・主演のジャンニ・ディ・グレゴリオはこれがデビュー作ということだが、脚本などではすでに活躍、2008年のカンヌでグランプリを獲得した『ゴモラ』(同じく2008年の東京国際映画祭で上映)の脚本家でもある。ずいぶんと歳がいった新人だが、年齢を重ねたがゆえに撮れる深みと新人であるがゆえに醸し出せる瑞々しさが共存していてとてもいい。
そして、人がほとんどいないローマの町は、おじさん二人がスクーターで走っているだけでなんだかドラマティックだ。