親密
2008/10/20
親密 Claustrophobia
2008年,香港,100分
- 監督
- アイヴィ・ホー
- 脚本
- アイヴィ・ホー
- 撮影
- リー・ピンビン
- 音楽
- アンソニー・チュウ
- 出演
- カリーナ・ラム
- イーキン・チェン
- アンディ・ホイ
- フェリックス・ロク
- チャッキー・ウー
- デレク・ツァン
部長のトムの運転で帰宅をする5人の同僚たち、恋人同士であるジョンとジュエルがもめてジョンは一人で帰宅する。最後にトムとパールとふたりになると車中は気まずい雰囲気に、新しい職場を紹介するというトムに対してパールはクビにしてくれと言い、ふたりは喧嘩別れする…
『ラヴソング』などの脚本家アイヴィ・ホーの初監督作品。オフィスを舞台にした大人の恋愛模様。
破局から過去に遡る時間、具体的な事柄は何も語られないに等しいまま物語は逆向きに展開してゆく。時間を遡るという展開は不透明なカバーを1枚1枚はがしていくように少しずつ中身が見えてくるということを意味する。そして最後にはその結末の発端となった事柄が明るみに出て、すべてに納得がいくということになるわけだ。
この作品も基本的にはそのような展開をする。トムとパールの決別の場面から始まり、その数日前、数週間前、1ヶ月前と時間が遡り、その時々のトムとパールの間に起こったエピソードが語られる。そしてその多くは車の中で起こり、その反復が二人の感情と周囲の環境の変化を判断する基準となる。
しかし、何というかその変化があまりに乏しい。表現を抑えたリアルで大人な描写の仕方であることはわかるが、その割に心理描写に深みがない。トムとパールの関係というのはオフィス内の恋愛の問題であり、不倫の問題であるわけだが、ただひたすらそのことをわかりにくく描いているに過ぎず、それ以上の要素は何も絡んではこない。
人が恋愛にしても仕事にしても他の何事にしても何かを決断しようというときには、問題となっているそのこと以外のさまざまな要素が複雑に絡み合って判断を難しくさせる。オフィスでの不倫なんかはその複雑さがわかりやすく表れる恒例のはずだ。本人同士の感情だけでなく、配偶者との関係、仕事との関係、同僚との関係、それらをすべて勘案した上で決断を下す、それが大人としての判断の難しさであるはずだ。しかしこの作品はそのような複雑さに焦点を当てることなく、ただただふたりの微妙な関係を描き続ける。二人の間に明確なコミュニケーションもないままそれぞれが(というよりはパールが)思い悩むさまをただただ描いているのだ。
そのようなやり方をすることでいわゆるオフィスラブのステレオタイプを免れることには成功した。しかしそれを乗り越える新しい表現を生み出したとはいえない。唐突に登場するケンなんかはもっといい役割を果たしそうに思うのだが、意外とあっさりと舞台から退場してしまう。
よかったのはパールを演じたカリーナ・ラムの表情だろうか。言葉による意思疎通があまり図られない中、彼女の表情はパールの感情を緻密に伝え、それが物語の展開を支えていた。それがトムのほうでもできたら作品としては面白くなったのかもしれない。主観的というよりは客観的な描写を貫いているのだから、パールの一人称的な視点にこだわらず、トムや他の登場人物からの視点も加えれば、もっと面白くなったのではないかと思う。