クスクス粒の秘密
2008/11/7
La Graine et le Mulet
2007年,フランス,153分
- 監督
- アブデラティフ・ケシッシュ
- 脚本
- アブデラティフ・ケシッシュ
- 撮影
- ルボミール・バクシェフ
- 出演
- アビブ・ブファール
- アフシア・エルジ
- ファリダ・バンケタッシュ
フランスの港町、船の修理工のスリマーヌは離婚して恋人の経営するホテルで暮らしているが、別れた妻や子供たちのところもたびたび訪ねる。不景気のために仕事を減らされた彼は別れた妻のクスクスでレストランを開くことにし、恋人ラティファの娘リムと開店のために奔走するが…
チュニジア系フランス人コミュニティを描いたヒューマンドラマ。常に張り詰めたような空気が漂っている印象の作品。
主人公は無口だ。しかし別れた妻、子供たち、現在の恋人、そして恋人の娘に対して彼なりの判断を保持し、それにしたがって行動する。そして長年続けてきた仕事でクビになりそうになり、退職金で船上レストランを開くことを思いつく。そしてそのメニューは別れた妻が作るクスクスなのだ。それを思いついたのは、別れた妻が作ったクスクスを恋人の娘リムが食べて「毎日でも食べたい」と言ったこと。チュニジア人のソウル・フードとも言えるクスクスを食べられる店がパリにはないというわけだ。
ここで微妙な人間関係が生じる。別れた妻と子供たちと一緒に店をやる。それを恋人の娘が手伝い、しかも見せは今の恋人が経営するレストランでもあるホテルのすぐそばに作られる。その状況を考えるとスリマーヌは無神経な男かに見えるが決してそうではない。彼は元妻がクスクスを作ってはくれるが、表舞台には出たがらないことを知っており、それが障害になるとは考えていない。
ただそんな彼も浮気性の長男マジドは信じておらず、しかし彼の手を借りなければならないことに不安を感じている。しかも娘たちがラティファとリムを軽蔑していることも知っている。
開店が可能かどうかが決まるプレ・オープン・パーティの日、手伝いにやってきた娘たちの口さがないおしゃべりを延々と映し、すぐ近くにいながら気兼ねとプライドからパーティーにいけないラティファとリムを映す。娘たちは横柄で無礼で、この小さなコミュニティの中に存在する歪みを如実にあらわす。そして、浮気相手をパーティー会場で見つけたマジドはクスクスを車に積んだままどこかに行ってしまい、客たちの不満が高まるが娘たちは何もしない。スリマーヌはもう一度元妻に作ってもらおうとするが、スクーターを盗まれるというトラブルに見舞われる。
そこでリムが決してスリムとはいえないおなかを露出してベリーダンスを披露する。それによってお客は和むが、そのシーンがやたらと長いのがこの作品の肝である。2時間半を越える作品の最後の最後に、延々と踊り続けるリムと延々とスクーター泥棒を追いかけるスリマーヌを対比させる長い長い時間、そこから感じられるスリマーヌとリム、そしてラティファの感情、それを考えるといらだたしいシーンであるにもかかわらず目を話すことができなかった。
感動もなく、笑いもなく、言ってしまえば明確な物語すらない2時間半、それは苦痛でもあるが、作品全体を通してあふれる言葉とは裏腹に、明確な言葉にならない言葉としてスクリーンから湧き上がってくるような想念が何かを語ろうとしていると感じる。