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クローバーフィールド/HAKAISHA

★★★.5-

2008/11/14
Cloverfield
2008年,アメリカ,85分

監督
マット・リーヴス
脚本
ドリュー・ゴダード
撮影
マイケル・ボンヴィレイン
出演
マイケル・スタール=デヴィッド
マイク・ヴォーゲル
オデット・ユーストマン
ジェシカ・ルーカス
preview
 「かつてセントラルパークと呼ばれた場所で発見された映像」という説明があってはじまるのは、まず恋人同士の朝の一場面、そしてその後、ロブという青年の送別会の様子である。その送別会の途中で停電がおき、地面が揺れ、未曾有の惨事が彼らに降りかかる…
  公開直前まで内容をほとんど明かすことなくプロモーションを行って話題を呼んだパニック・ドラマ。
review

 普通に作品としてみた場合、はっきり言ってちっとも面白くない。なぞの怪物に街が襲われ、ビデオを持ってただ逃げ惑い、主人公は振った恋人をどうしても助けなければと行って怪獣の懐に助けに行く。その心理がまったく理解できないので、主人公に感情移入できないし、それについていく友人も理解できない。わざわざ殺されに行って「どうなってるんだ!」と叫ぶだけというのは、はっきり言って見ていて退屈だ。

 その上、この映画は非常にいい加減に作られているというか、ありえないはずのことを平気でやってしまう。そもそも素人がパニックに陥りながらこんなにうまく撮影し続けることができるはずはないし、怪我をしたりしてもそんなことはなかったかのように元気に走り回ったりもする。それが完全なリアリティの欠如を感じさせ、SFとしてもあまりにありえなさ過ぎて興ざめしてしまうのだ。

 しかし実はこの作品はそうでなければならない。これが映画として成立するためには、怪物のいる中心に主人公が行かなければならないし、カメラもそれについていき、暗いところでは暗視カメラを使ってでもそれを映さなければならないのだ。どんなに無理があってもそうしなければ映画として成立しないから。

 そんな映画は普通に考えれば失敗作だ。観客に映画として成立するための構造を感知させてしまう映画、それは興をそぐ以外何の役にも立たない。

 しかし、この作品ではそれも含めて映画なのだと思う。この作品を突き詰めていくと結局「これはいったいなんなんだ」という疑問に収斂する。その疑問には怪物である「あれ」が何なのかという疑問とこの映画自体が何なのかという疑問が含まれると思うが、どちらにしても「なんなんだ」と思う気持ちは観客を作品に惹きつける。

 退屈なんだけれど「なんだんだ」という疑問が引っかかって画面から目を離すことができない。そしてそうするとどんどん「なんなんだ」と思ってしまうようなものが登場してくる。終盤は特にあまりにことが(映画的に)都合よく進むことに際限なく疑問を感じてしまう。

 そして、その「なんだんだ」が行き着くのはわけがわからないことに対する恐怖である。私たちは理解できないものに対して恐怖を感じる。理解できなければ次に何が起きるか予測が出来ないからだ。そしてその最たるものがここに登場する怪物なのである。この怪物はどこからやってきたのかもわからなければ目的もわからないが、とにかく街を破壊し、人々を殺戮していく。それは圧倒的に恐ろしい。

 この恐怖の表現はやはり「9.11」から来ているのだろう。9.11のテロは今や「アメリカ政府の陰謀」だという説が有力だとすら言われる。あれほど世界中が悲嘆にくれ、破壊の無意味さを噛み締めたあの惨事を、人々は無理やりに理解しようとし、理解した気になってしまうことで、その記憶はに風化していってしまう。この映画はあの恐怖を思い起こさせるためにニューヨークを再び破壊した、私にはそのように思えてならなかった。

 この作品は『ゴジラ』へのオマージュだとよく言われるが、それは作品の構造や怪獣の性質だけでなく、メタファーとしてもそうだということなのだろう。原水爆に対する『ゴジラ』、9.11に対する『クローバーフィールド』。戦後の復興によって戦争の悲惨さを忘れた日本人たちにゴジラはその恐怖を思い出させた。それと同じことがこの作品でアメリカにおこっているのだ。

 『ゴジラ』の悲哀を表現することはなかったが、それはおそらく日本とアメリカの人々の感受性の違いによるものだろう。ストレートな恐怖のほうがおそらくアメリカ人には“効く”のだ。果たして制作者の意図が本当にそんなところにあったのかはもちろんわからない。でもそう考えていけない理由もないし、そうでも考えなければ、本当にクソ映画だ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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