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ベストセラー

★★★.5-

2008/11/17
1952年,日本,108分

監督
中村登
原作
山本有三
脚本
中村登
潤色
大木直太郎
撮影
生方敏夫
音楽
吉沢博
奥村一
出演
佐分利信
淡島千景
桂木洋子
津島恵子
石浜朗
笠智衆
preview
 小学校教師の見並は生徒のきぬ子が芸者に売られてゆくのに心を痛める。その一年後、芸者屋から逃げ出してきたきぬ子と見並は結婚、息子の駿が生まれるが、その前にきぬ子は一人の学生と不義を行っており、見並は駿が自分の息子と確信できない。そんな中きぬ子は産後の産褥熱で亡くなり、見並は駿を里親として紹介された野々宮昂子に預ける。
  文芸映画を得意とする中村登監督が山本有三の同名作品を映画化。脚本も俳優陣もよく、非常によく出来た映画という印象。
review

 佐分利信は現代のとらえ方からするとそれほど男前というわけではない。しかし渋みがあり、魅力的で、見るものを惹きつける。そもそも佐分利信は1930年代に“松竹三羽烏”として女性ファンから熱狂的な支持を集めたアイドル的な俳優(後のふたりは上原謙と佐野周二)、そしてただ男前というわけではなく、演技もしっかりとしていて年を追うごとに実力をつけて俳優として大成して行った。この作品のときにはすでに40代、俳優としては脂の乗り切ったときと言っていいだろう。

 その佐分利信が少し軟弱な男を演じる。彼はとにかく迷い、流される。物語の始まりから芸者に売られていく生徒をどうしたら救えるか迷い、売られて行ってしまったあとで父親を責めるがそれは何にもならない。1年後に彼を頼ってきたその生徒に誘惑されて結婚してしまい、その妻が不貞を働くと「愛し合っているなら身を引こうと考えていた」などと言ってしまう。そして自分の子かどうかわからない息子を抱えても、その息子とどう接するかを悩み続ける。

 佐分利信はその迷い、悩み、流される見並という人物の気持ちの揺れを本当に見事に演じている。特に目の表情と視線の遣り方で気持ちを表現するところが秀逸だ。映画のほうもサイズを動かしながら彼の目線をとらえて観客に伝える。この感情の機微を伝えるというのは古い日本映画の多くが持つ素晴らしい点であると思う。

 女優陣について言えば、演技がどうこうよりとにかく美しい。白黒の画面というのは女性の美しさを引き出す力があるのだと思うし、中村登という監督は女性の魅力を引き出すのがうまい監督だと思う。

 それ以外では、笠智衆が実によかった。見並の同僚の教師の役で、いつも通りの棒読みのような台詞回しで朴訥とした人物を演じているのだけれど、見並の軟弱な性格とは対照的にしっかりとした芯を持つ人物でそのしゃべり方がそのキャラクターに妙な説得力を与える。このように脇役にもしっかりとしたキャラクター付けがなされ、それをしっかりと演じる役者が配置されているというのがこの作品が本当にいいと感じられる大きな要因であると思う。

 物語ももちろんだが、この感情の機微の伝え方や映像の作り、脇役の存在感なんかが日本映画の本当のよさなのだとこの作品を見て思う。決して目を見張るような傑作ではないし、今後もあまり日の目を見ることはない作品だろうけれど、これぞ日本映画という作品であり、“古い日本映画”を見たいと思ったときにはぜひ見たい作品である。

 この作品は1952年(昭和27年)の作品、一般に日本映画の黄金時代は昭和30年代といわれるが、いい日本映画というのは昭和20年代の後半からかなりある。私は黄金期は1950年代から60年代であり、さらに言えばその20年間は日本映画の変革期でもあったと思う。50年代の作品というのは戦前の日本映画の影響を色濃く残し、戦前や戦争をリアルタイムに題材としたものも多い。しかし、60年代になると外国映画の影響もあり、日本の経済成長もあり、“古い日本映画”というよりは“モダン”な印象が強まる。そして戦争の影は付きまとっているが、それは振り返るべきものであり、同時代的なものではなくなっているように思える。もちろんこれは全体的な印象であってここの作品についてはまた別の話しなわけだが、私にとって60年代の日本映画はもはや“古い日本映画”ではない。

 この作品は“古い日本映画”といえる最後のそして最良の時期に作られた映画であり、本当に“古い日本映画”のよさが詰まった作品だと私は思ったのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本50年代以前

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