スリップストリーム
2008/11/26
Slipstream
2007年,アメリカ,96分
- 監督
- アンソニー・ホプキンス
- 脚本
- アンソニー・ホプキンス
- 撮影
- ダンテ・スピノッティ
- 音楽
- アンソニー・ホプキンス
- 出演
- アンソニー・ホプキンス
- ステラ・アロイアヴ
- ラナ・アントノーヴァ
- クリスチャン・スレイター
- マイケル・クラーク・ダンカン
- ジョン・タトゥーロ
初老の男フェリックスが若い女性を連れてドライブしていたところ、ハイウェイで銃撃事件に遭遇するが、フェリックスは何事もなかったかのように走り続ける。一方、バーの店主が何かの落とし前で殺され、その犯人と共犯者が田舎のダイナーにやって来る。彼らはそこで人騒動おこし、店員や客を恐怖に陥れるが、実はそれは映画のワンシーンで…
アンソニー・ホプキンスが監督に挑戦した(実は1996年の『8月の誘惑』以来2度目)幻想的なサスペンス・ドラマ。かなり理解するのは難しい。
難解な映画とわけのわからない映画の境目というのはどこにあるのだろうか。難解な映画というのは理解するのが難しい映画であって、わけのわからない映画というのは理解できない映画なわけだけれど、それは観る人の問題であって観る人が理解できなければわけのわからない映画で、どうにかこうにか理解できれば(理解した気になれれば)難解な映画ということでいいのだろうか。
なんだか違う気がする。
この映画は私にとって“かなり難解な映画”だった。まったくわけがわからないわけではないのだけれど、理解できる見通しは立たない。そんな映画だ。
映画のほうはというと、アンソニー・ホプキンス演じる脚本家フェリックスが現実だか彼自身の創作だか判別がつかない世界をさまようという話、どこまでが現実でどこまでが彼の創作/想像なのかはまったく判然としない。それは彼自身もその区別がつかなくなっており、映画がフェリックスの視点から語られている以上、観客にその区別がつくはずはないのだから当たり前のことではある。
ならば、その現実と創作が判別できないということを前提にこの作品は成り立っているということだ。ということはつまり、この作品においては現実の彼が何をして、どうなったかということに意味はないことになる。
クリスチャン・スレイターが田舎のダイナーで因縁をつける場面は、撮影クルーが登場しそれが映画の撮影だったということが明かされることで現実らしいものとして提示されるけれど、それ自体フェリックスの創作ではないとは言い切れない。撮影現場に赴いたフェリックスが車の中で見つけた死体と彼の書いた脚本の中で車で殺された男とはどういう関係にあるのか。彼の脚本と同じ事件が現実でおきているのか、それとも彼自身が彼の創作した物語の中に登場しているのか。
フェリックス自身が彼の創作した物語に登場していることは間違いがないようだ。それは物語の中で殺される男と彼が会話をしているからだ。そして映画の終盤ではその殺される男を演じた俳優とも会話をしている。
おそらく彼は創作をしながら、自分の創作した物語を把握できなくなってしまったのだろう。そこで物語を整理するために自ら物語の中に入り込んだが、そのことで今度は逆に創作した物語と現実とが判別できなくなってしまった。
もしかしたらこれはアンソニー・ホプキンスが実際に感じていることなのかもしれない。友人や家族に俳優が多い中で、現実の彼らと彼らが演じている人々が混乱してきてしまう。もちろん実際に錯乱状態に陥ることはないのだろうけれど、たとえば映画の中で「死んだ」ということを聞いた人を実際に死んでしまったと勘違いしたりすることはあるんじゃないかと思ったりする。
誰だって作り話がいつの間にか現実の記憶とすりかわっていたという記憶はあるはずだと思う。こう考えて見ると、この作品が言わんとしているところはわからないでもないから、“難解な映画”ということになるのだろうか。でもやはり観る人によっては“わけのわからない映画”としか思えないということも大いにありうる。
難解な映画とわけのわからない映画の境界がどこにあるのかは私には結局わからなかった。しかしやはりそれは評価の問題に過ぎないということは確かなようだ。わかりにくくても、わかりたいと思わせる映画は“難解な映画”であり、わからないからつまらないと思わせてしまう映画は“わけのわからない映画”なのだろう。
まあそれも結局、観る側の問題なわけだが…
少なくともこの映画は私にとってわけがわからないわけではない映画だったし、興味を持てる人には興味深い映画になるとも思う。かなり不可解なことが多いので、その謎を解いてみようという意欲のある人にはくり返し観るに値する映画になるかもしれない。
それぞれの登場人物が現実と創作でどのような人物なのかを解明した人がいたら、ぜひ教えて欲しいところだ。