チャーリー・ウィルソンズ・ウォー
2008/12/2
Charlie Wilson's War
2007年,アメリカ,101分
- 監督
- マイク・ニコルズ
- 原作
- ジョージ・クライル
- 脚本
- アーロン・ソーキン
- 撮影
- スティーヴン・ゴールドブラット
- 音楽
- ジェームズ・ニュートン・ハワード
- 出演
- トム・ハンクス
- ジュリア・ロバーツ
- フィリップ・シーモア・ホフマン
- エイミー・アダムス
テキサス州選出の下院議員チャーリー・ウィルソンは裸の美女たちとの入浴中にソ連のアフガン侵攻のニュースを見る。すぐにアフガン向けの予算を2倍にすることを求めた彼は、さらに支持者である大富豪ジョアン・ヘリングに求められてパキスタンとアフガニスタンに赴く…
冷戦終結の陰の立役者といわれるチャーリー・ウィルソンがアフガンとソ連の戦争に介入していった様子をコメディ・タッチで描いた社会派ドラマ。
星条旗で始まる映画には気をつけたほうがいい。だいたいの場合、星条旗で始まる映画というのはそれが何らかのセレモニーのシーンだったりするわけだが、それは単に話の導入であるというだけでなく、その作品が愛国的な理念に基づいて作られていることをも表明するものだからだ。
星条旗で始まる映画にトム・ハンクスといえば、即座に思い出されるのは『プライベート・ライアン』だ。1998年に作られた湾岸戦争向け愛国プロパガンダ映画を思い起こさせるというのはこの映画も同じような映画なのではないかという危惧を観客に植え付けるには十分だろう。もちろん、逆に愛国心あふれるアメリカ人にとってはわくわくする瞬間なのだろうが。
果たして映画は基本的にはそのように進む。酒と女にしか興味のないように見える下院議員がアフガニスタンに目を止め、支持者の要請ではあったが現地に足を伸ばしてその現状を見、その悲惨さに衝撃を受けて、予算を獲得しようと奔走する。そして、ついに予算を獲得し兵器と訓練を行き渡らせたところで、極悪非道なソ連軍がごく普通の田舎の村を機銃掃射するシーンが挟まれる。そして、観客の期待にたがわず、アフガン人がそれを撃墜するのだ。
そのソ連人の非道さは誇張されたものだとわかっていても、そのヘリが撃墜されるとついつい拍手を送りたくなってしまうのが、この作品のすごさだ。これぞまさに愛国心の製造装置ハリウッドの面目躍如というところだろう。
しかし、この作品はそこにちょっとした違和感がある。このソ連の描き方があまりに誇張されすぎているのだ。基本的な映像は古臭い資料映像で、この襲撃シーンだけが新しく撮られたものなのだが、それがあまりに芝居がかっていてパロディとしか思えない。
そして、アメリカが支援するゲリラ組織であるムジャヒディンの名前が繰り返し出てくるというのも違和感がある。今ではニュースで耳慣れたムジャヒディンを何度も言葉として出すことで、これがまさにアメリカがイスラム原理主義ゲリラに武器を渡した瞬間だということを明らかにしているのだ。
アメリカは策を弄してソ連を打ち破ったけれど、その結果また新たな敵を生み出してしまった。恩をあだで返されたというよりは、これは憎しみを拡大再生産し続ける戦争の必然なのだろう。この作品はそのことを直接描きはしないが、“正義の味方”チャーリー・ウィルソンをコミカルに描くことによって、その“正義”に冷や水を浴びせていることは確からしい。
これを愛国的な作品と取るか、批判的な作品と取るか、それともどちらとも取れないように観客を煙に巻いた作品と取るか、それは見る人しだいだ。そこがこの監督マイク・ニコルズのうまいところでもあり、いやらしいところでもある。
私は内容的にはあまり気持ちいい気はしなかったが、フィリップ・シーモア・ホフマンが俳優としてもキャラクターとしてもとてもよかったので、見る価値はある作品だと思った。作品が描いていることをバカ正直に真に受けない限りそれほど悪い作品ではないと思う。